ニョメン・オーガナイジング⑲同志富者の女たち/文・イラスト=張歩里
2026年01月07日 11:37 ニョメン・オーガナイジング別れの場に立ち現れた女たち
大阪のイモ(おば)が死んだ。
幼いころに読んだ小説『西の魔女が死んだ』(1994、梨木香歩)を思い出し、印象的な冒頭フレーズをそのまま借りてみた。
私には6人のイモがいる。なかでも大阪に暮らすイモたちは、みんな“熱い”。とくにニョメン活動に対して熱い。会うたびに、支部や分会がどうで、誰がああでこうでと、目を輝かせながら語ってくれた。そして最後には決まって、「やっぱチョソンサラムがええで」と言っていた。

その一方、日本の政治家や報道に対しては、もうボロクソ。いつも舌鋒鋭く、口も悪い。関西弁だから余計そう聞こえるのかもしれないけれど、イモは本当に遠慮がなかった。そんなイモとの急な別れ、新幹線に乗って告別式にどうにか駆け付けた。
日本風の斎場、なんか「らしくないなぁ」と思っていた矢先…。棺の横には、家族でも親族でもないのに、まるで家族のように涙を流すニョメンオルシンたちがずらりと並んでいた。みんな泣いていた。いや、嗚咽していた。
「なんで私よりはよいくねん」「またいっぱい美味しいもん食べよな」
それぞれが思い思いに、イモに語りかけながら泣いていた。日本風葬儀の体裁なんて気にしないニョメンオルシンたちに囲まれるイモ。そうイモは人生の半分以上をニョメンとともに歩んだ。家事、子育て、それが一段落すれば介護と孫の面倒。生活のためにいくつもの職場を渡り歩き家計を支えながらも、非専従でニョメン活動に奔走したイモ。その間にこんなにも多くの“同志”を作ったんだなぁ、と胸が熱くなった。
いやいや、女性の人生に「同志」がいるという光景を初めて目の当たりにしたのかもしれない。「同志富者(プジャ)」って実は女性のほうなのかもしれないぞ! 「同志富者」のイモ、かっけえぇぇー! と心の中で噛みしめ、遺影の中で笑うイモを見ながら泣いた。
「同志」は男だけの言葉じゃない
イモの棺を囲んで泣いていたニョメンオルシンたちに、「同志」というような崇高な概念はなかっただろう。私自身も長い間「同志」と聞くと、男の世界を思い浮かべてきた。組織、運動、闘争、そして会社における結束や友情。それらは多くの場合、男性同士の結びつきとして語られてきたし、私たちもそういうイメージを刷り込まれてきた。
しかしイモの周りには、人生の困難と生活の現実をくぐり抜けながら、口やかましく、しかし強く繋がっている女性たちの共同体が存在していた。
男性の「同志性」はしばしば、理念や理屈、あるいは“旗”を共有することで強化される。一方、女性のそれは、もっと具体的で、もっと身体的で、もっと生活に根ざしているように思う。日々の炊事、子どもの成長、家計の工夫、職場の愚痴、夫婦間の悩み。そうした生活の細部が共有されることで、結びつきが生まれる。理屈よりも、弱さや恥や涙が結び目になる。
葬式で女性たちが口にした「よう頑張ったな」というひと言。あれは、人生をともにしてきた者同士にしか投げかけられない言葉だ。家族を支え、働き、生き延び、なお活動し続けることを選んだ世代。戦後の貧困、偏見、差別、子育てや介護と労働の両立――その経験と苦難の厚みが、おそらくかのじょたちの連帯を支えている。男が「同士よ」と肩を組む世界があるなら、かのじょたちは肩を貸し合い、布おむつを洗い、キムチを漬け、ハッキョを助け、血圧を心配し、病院を紹介し、子や孫の世話を交代でこなした。生活を支えるその手つきそのものが、同志性をつくり出しているとでも言えよう。
一般的に男性の組織は「目的共同体」であり、女性の共同体は「生活共同体」と言うらしい。しかし在日朝鮮人運動のなかを生きた女性たちを、その二分法だけでは説明しきれない。
目的も理念も、生活の汗と涙を通り抜け、弱さや恥を分かりあうことで、最終的には「生きた」実感を分かち合える関係になる。それが女性の同志性なのだろう。
イモたちの世代は、家父長制のただ中を生きた世代だ。制度上も文化上も、男が前に立ち女が支える構造は揺るがなかった。しかし、その背中に隠れたはずの女性たちが、気づけば「自前」の連帯を築き、政治的実践を積み重ね、「同志」という言葉を自分たちのものにしてきた。私がこれまで読んできた本には、ほとんど登場しなかった姿である。
この連載の第1回でニョメンは「ゆり籠から墓場まで」と書いたが、そこに加えて「同志富者」という言葉を私は付け足したい。誰かが用意した言葉ではなく、自分たちで耕し育てた同志性――それは、これからのセセデ・ニョメンが引き受けるべき精神ではないだろうか。虎は死んだら革を残し、人は死んだら名を残すという。ならばニョメン活動の終着点には、同志たちがいてほしい――私はそう強く思う。
(関東地方女性同盟員)
※オーガナイジングとは、仲間を集め、物語を語り、多くの人々が共に行動することで社会に変化を起こすこと。新時代の女性同盟の活動内容と方式を読者と共に模索します。
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