公式アカウント

被爆者たちの遺志を継ぐ決意新たに / 広島・朝被協の取り組み

2025年08月13日 09:00 在日同胞 社会 歴史

“朝鮮人被爆者のことを知って”

1945年8月6日、米軍が投下した一発の原子爆弾は、広島市に壊滅的な被害を与えた。朝鮮人被爆者は約5万人、死亡者は約3万人とされているが、正確には把握されていない。被爆80年の今年、広島県で初となる「朝鮮半島出身原爆被害者を追悼する会」が8月2日、広島市留学生会館で行われた。長年、朝鮮人被爆者問題に取り組んできた広島県朝鮮人被爆者協議会・朝被協)が主催した。110余人が参加した集会には、日本市民、多くのメディア関係者も足を運んだ。

110余人が参加した集会には、日本市民、多くのメディア関係者も足を運んだ

朝被協の50年

1975年8月2日に産声を上げた朝被協は、集会当日に結成50年を迎えた。入市被爆を体験した李実根さん(故人)を中心に、県内の朝鮮人被爆者130人で結成。結成大会では、当面の活動方針として、▼朝鮮人を含めた被爆者に対する援護法の制定の要求、▼朝鮮人被爆者の実態究明、▼朝鮮人被爆者のための慰霊碑建設の実現が定められた。

結成以後、朝鮮人被爆者の訪問調査などによる実態究明、同胞の被爆者健康手帳取得の支援に奔走し、1990 年代から在朝被爆者支援にも注力してきた。金鎮湖会長(79)によると、40年以上会長を務めた李さんは、「ものすごい切れ者だった」。李さんは、1978 年5月の第1回国連軍縮特別総会に日本代表団のオブザーバーとして参加して以降、世界各地を飛びまわり、原爆を投下した米国の責任を追及し、日本の植民地支配と侵略戦争の結果被爆した「朝鮮人被爆者」の存在を広く知らせた。

朝被協主催の追悼会がこれまで開催されなかった背景には、追悼碑の不在があった。民団が中心となり1970年に建立された韓国人原爆犠牲者慰霊碑は1999年に平和記念公園内に移設されたが、すべての朝鮮半島出身原爆被害者のための追悼碑は県内にない。「追悼碑を建てなければいけないのではないかという被爆者たちからの声が多くあった。朝被協・総聯側は追悼碑を建て、そこで祭祀をするのが目標だった」―金鎮湖会長はそう語る。

追悼会では朝被協関係者などによる祭祀が行われた

しかし、被爆者が高齢化するなかで、「これ以上先延ばしにできない」(金鎮湖会長)という苦渋の決断の下、朝被協と総聯県本部は昨年、被爆80年を迎える今年の開催を視野に入れるように。そこで「ウリ民族フォーラム」(7月6日)の開催が決まり、県内同胞たちは集会の準備に大きな力を割けなかったため、朝被協の理事を中心にこの間準備を進めてきた。フォーラム終了後、県内の各団体・機関も準備に合流し、祭祀の準備や当日の設営などスタッフとして集会を支えた。

集会の報告で、金会長は「朝鮮半島出身者の被爆の経験を後世に引き継ぐため、また、碑を見ることなく亡くなった同胞被爆者たちの無念・遺恨を晴らすためにも、朝鮮半島出身被爆者の追悼碑の建立を実現したい」としながら、「あらゆる選択肢を視野に入れて碑の建立を実現する」ことを強調した。

活動を次世代へ

朝被協は近年、同胞被爆者の遺志を若い世代に継承するための取り組みを進めてきた。集会最後、朝被協の権鉉基理事(県青商会常任幹事、43)が決意表明をした。「朝鮮半島出身者被爆者の存在と死は長く語られることなく、社会の記憶から取り残されてきた。いま私は朝鮮人3世としてここに立っている。過去と現在をつなぎ、これからの未来を繋ぐ存在として。亡くなった方々の声なき声を私たちの言葉で語り継ぐ責任があると感じている。これからも若い世代が在日朝鮮人の歴史、被爆者の思いをつないで、活動していきたい」と言葉に力を込めた。

朝被協の権鉉基理事が被爆者の思いを継ぎ活動していく決意を述べた

この日、11歳で直接被爆した朴玉順さん(91)の姿があった。朴さんは李実根さんの妻として、李さんの活動を支え続けた。朴さんは「活動を継いでくれる人たちがいて安心している」と集会を振り返りながら、「亡くなった多くの被爆者、骨すらどこにあるかわからない人たちのためにも追悼碑を建立するのはいいこと。これからも若い人たちが被爆者の遺志を継ぎ、『朝鮮人被爆者がいた』ということを広めてほしい」と訴えた。

スタッフとして参加した留学同中四国の李柱荘委員長(広島経済大学4年)は、「原爆の体験世代が高齢化するなかで、自分たちはこの間、継承問題に取り組んできた」と振り返る。李さんは先のウリ民族フォーラムの研究チームの一員として朝鮮人被爆者の資料作成をし、それを用いて朝高生たちとフィールドワークも実施した。「朝鮮人被爆者のことを知ってもらう。それが広島で生まれ育った私たちにできることだ」(李さん)。

(朝鮮新報)

Facebook にシェア
LINEで送る