昨年オープン地域資料館/神戸在日朝鮮人史を収集
2025年04月08日 09:00 文化・歴史朝鮮のルーツを感じる展示
1910年「韓日併合条約」後、強制連行や徴用などで朝鮮半島から日本各地に渡ってきた朝鮮人は数知れない。100年以上前から朝鮮にルーツを持つ朝鮮人が暮らしていたという兵庫県神戸市に昨年12月、「神戸在日コリアンくらしとことばのミュージアム」が開館した。
憩いの場、学びの場へ
一般社団法人神戸コリア教育文化センター(神戸市長田区)が運営する「神戸在日コリアンくらしとことばのミュージアム」は、JR「新長田」駅から徒歩3分のところにある。
2014年に設立した同センターは、神戸市立小学校2校に設置されている在日朝鮮人の子どもたちの朝鮮語教室「オリニソダン」の運営支援とその増設を目指し、公立学校における民族教育権の制度的保障に向けて取り組むほか、在日朝鮮人の生活資料などの収集保存活動、語学教室(朝鮮語、ベトナム語)、多民族多文化共生推進のための活動などを主な事業としている。とりわけ朝鮮語教室を巡っては、注力する理由が、この地に住む在日朝鮮人児童の多さに起因している。2年前、同地区にある神戸市立長田南小学校の校長(当時)が「近年では、ニューカマーとりわけベトナム籍の家庭が多いものの、『チャルモッケッスンミダ』や『オモニ』などといった子どもたちの日常会話から、朝鮮半島にルーツがある児童が多いのだろうと感じることも少なくない」(連載「歴史の『語り部』を探して」在日朝鮮人の足跡伝える/兵庫編(上)より)と語っていたことからも、その必要性は容易に推測できる。

1階では、日本(主に神戸市長田区)に住んでいる在日朝鮮人の「暮らし」がわかる写真や映像、生活資料などを展示

2階には、数千点以上の朝鮮・韓国にまつわる書籍を備えた図書室が設置
このたび開館したミュージアムは、以前、同センターに併設された地域のコミュニティカフェ「ナドゥリ」(朝鮮語でお出かけという意。)を全面改装し建てられた。そのため、同ミュージアムの愛称は、「ナドゥリミュージアム」と言う。施設1階では、100年以上にわたり日本(主に神戸市長田区)に住んでいる在日朝鮮人の「暮らし」を写真や映像、生活資料などで観覧することができる。また、ドリンクなども提供しており、カフェ「ナドゥリ」の面影を残している。2階には、数千点以上の朝鮮・韓国にまつわる書籍を備えた図書室が設置され、学習やセミナー室としても利用可能(施設利用時は予約必要)。
昨年末の開館以来、来場者数は600人を超えるといい、地域の憩いの場であり、学びの場として着々と根を張っている。
家族写真に思いをはせ
館内へと歩みを進めると、数々の展示品が来場者らを出迎える。在日朝鮮人のかつての暮らしを、聞き取りに基づき再現したジオラマや、実際に在日一世の使っていた洗濯石などの生活用具、また、祖国解放後の朝鮮語教育で使われた教材なども展示されている。

「くつのまち」長田を象徴する展示もある
そして、地域史と関連づけ「くつのまち」長田を象徴するケミカルシューズ産業、それを支えた在日朝鮮人のゴム屋(靴工場)の貼り工、ミシン工などの暮らしの記録、仕事道具など長田地域の多文化共生の土壌を学べる地域ミュージアムらしい展示が施されている。中でも「生活ジオラマ」は、1950年代の社会、暮らしを反映していることから、在日朝鮮人の生活文化を知る第一歩とうたっている。
一方、ミュージアム内でひときわ目を引くのが、壁一面に展示された写真だ。
同センターの関係者らが収集した写真は、植民地時代から現代までに撮られた家族写真、婚礼記念写真、葬儀時に撮った写真、出征記念写真、学徒動員時の写真など、在日朝鮮人たちの人生の節目で撮られてきた写真たち。それらはまさに、在日朝鮮人の歴史そのものだった。
同センター並びにミュージアムの代表理事の金信鏞さん(72)は、この写真展示に思い入れがあるという。2004年に実母が亡くなった際、両親の故郷である巨済島を訪ねた金さん。その際に生前、日本に渡る前の母や父、そして幼い自身が映る家族写真などを見ることになったそうだ。

金信鏞代表理事
金さんは「写真を見た時、ここ(朝鮮半島)に自分のルーツがあるのだとはっきりと認識した」としながら、この経験から在日3世、4世のための民族教育のヒントを得たと話す。今回ミュージアムで展示されている写真たちは、ほとんどが提供されたもので、提供者の子どもや孫が、その写真を見た時「自分の中のルーツを一番身近に感じることができるのではないだろうか」と話した金さん。「展示された写真は見る人々それぞれが、様々な思いをはせるだろう。ここに来る在日朝鮮人、日本の市民、ベトナム人など、どんな人々でも、この町で生きた人を記憶し、これからの多民族多文化共生のために何か考えるきっかけとなれば」とほほ笑んだ。
(李紗蘭)
施設情報
開館時間:10時~18時(毎週火曜、木曜は休館)
住所:兵庫県神戸市長田区若松町3-1-1-103
問合せ:078-777-2232
アクセス:JR「新長田」駅徒歩3分
入館料:一般 500円、学生300円、高校生以下100円、小学生未満無料、障がい者手帳所持者とその付添人100円