ニョメン・オーガナイジング⑧育児に介護… ケアの営みを共有/ 文・イラスト=張歩里
2024年12月04日 09:09 ニョメン・オーガナイジング「磯野家」に存在しない二つの層
日曜の夕方「サザエさん」を見ていたうちの子どもたちが、明らかに「磯野家」の家族構成を見誤っていた。カツオの母をサザエさんと勘違いしていたのだ。高年夫婦と青年夫婦、小学生の兄妹、就学前の幼児という四つの年代層が共に暮らしているのだが、最近の子どもたちからしたら、磯野家の家族形態は理解し難いのであろう(コミック連載当時としてはこのような家族形態はよく見られたであろうが)。
調べてみると、磯野家には中高生および未婚青年、そして退職後老年層が存在しないため、受験も非行も老人問題も存在しないのだという。したがって偶然にも磯野家には二つの年齢層が排除されることで、「沈滞した平和」「問題がない」究極の理想社会のみが描かれているそうだ。そこに超長寿番組であることの秘訣があるというのだ。
カツオやワカメは学力や進学問題で不安を抱えることはないし、波平も加齢によってケアを必要としているわけでもない。磯野家には存在しない、最も多くの「問題」を抱えるという二つの世代――それはニョメン盟員の多くが抱えている「問題」でもある。そう考えてみると、私はイクラちゃんのような就学前子育てをするサザエさん世代である。つまりアニメでタブー視されている問題にはまだ直面していないのだ! 60年前の磯野家も「家族」という方舟がこんなに重すぎる積み荷を背負うことになろうとは思っていなかったことであろう…。
逃れられない枷なのか
「育児」「教育」「介護」「介助」への不安は誰もが抱えていると思われるが、抱く「不安」の解釈も、大小もそれぞれ異なる。
女性の場合、「母親だから」「娘だから」という束縛から、ケアを抱え込むケースが多い。ケアというものは苦労や心配事が多く、自由を束縛する問題でもあるから、コストがかかる。このコストを無償で担ってきたのが女性たちである。
往々にして女性は公的領域から外れ、子どもや病人、障がい者、高齢者のケアを担い「家族」のなかに封じ込められてきた。しかも現代社会においては介護も子育てもケアの「サービス」をどのように利用するかの選択(市場化された私費サービスの購入)すらも、個人に強く求められている。女性に対するフォローより、責任ばかりが押し付けられるので負担も重い。そもそも人間は生まれてから10年以上と、老いてこの世から去るまでの数年、また病や障がいを得たとき、つまり少なくとも人生の4分の1ぐらいはケアを受けるのは必然なのだ。
誰もがケア依存なくては生きていけないのに、一生一度もケアの「役割」を果たさないでいられる人(男)がいてもいいものなのか!?
とくに「介護」において女性は、40代から50代にかけて主介護者になる可能性がどんどん高まり、それは60歳頃まで続くらしい。実際、私のまわりのニョメンを見ると「空洞化」が起こっている世代がこのケアを担っている層である。とくに介護は育児と異なり先の見通しが立ちにくく、長期化しがちである。多くの同胞女性が親世代を介護した後、パートナーを介護するケースもよく見る。
サザエさん世代の私はニョメン活動で出会う諸先輩方をみて、女性はライフステージの中で長い期間を介護とかかわる可能性があるのだと気付かされたのだ。
それだけではない。私の住む地域では地方に住んでいた孫の進学にあわせてハルモニが単身孫を預かり、ケアの再来を迎えていらっしゃるオルシンたちもいる。
ケアという重荷はニョメン活動において逃れられない枷であるのだろうか…。何よりもケアを個々の同胞女性が担うのを当然とする同胞社会であっていいのものなのか。
多様な不安を理解する
ニョメン「空洞化」世代のオンニたちは、ときに私たちの活動に対して手厳しい言葉を投げ、「メンビ」納付を渋ることもある。それは、かのじょらが「時間」「こころ」「お金」の不安を常に抱えているがゆえのリアクションなのだろうか。
しかし考えてもみれば、ニョメンの活動が「イベント化」ばかりしていくと、身軽な振る舞いができる人だけの特権的マダンになってしまう。ケアする者を最も苦しめるのは、それが毎日の生活として途切れることなく続き、自分でなければできないことで、しかも周りからは見えにくく評価されにくいものだからだという。
今の私にはその状況を想像する生活経験はないが、ニョメンの多くの世代は多様な状況の多様な不安内容を理解することができるし、同様な状況で同様な不安内容を持っている同胞女性を包み込み、支え合うことができるはずだ。まずオンニたちのようにケア放棄しないその責任感に寄り添うべきだし、かのじょらが閉ざされず自らの人生を生き社会に支えられる形作りが必要だ。
日本社会では「家族」を超えるシステム作りが最重要課題なのだが、同胞社会でも女性の生活経験、生活文化をもっと生かすことで、ケアの営みを共有し、より多くの同胞の生き方にかかわることができるのではないか。
(関東地方女性同盟員)
※オーガナイジングとは、仲間を集め、物語を語り、多くの人々が共に行動することで社会に変化を起こすこと。新時代の女性同盟の活動内容と方式を読者と共に模索します。