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愛知新校舎竣工祝賀会/学校を思う人々の声

2024年10月19日 09:00 民族教育

可能性が詰まった学び舎/現状を直視し発展遂げる

大いに盛り上がりをみせた祝賀会2部の野外行事

祖国解放後、日本各地ではじまった民族教育。植民地支配下で奪われたことば・文化・歴史を学ぶ過程は、在日朝鮮人1世、2世たちにとって民族的アイデンティティを回復し、獲得する営みそのものであった。あれから半世紀以上が過ぎ、いま各地にはかつて先代たちが通った国語講習所などを前身とする朝鮮学校で4世、5世たちが学んでいる。不景気に加えて、地方の過疎化と少子超高齢化の波が社会を覆う中、本来公平な施策であるはずの教育の無償化や補助から除外されている各地の朝鮮学校は、困難を強いられている。

この現状に向き合いながら、それでも「子どもたちの未来を創ろう」「私たちの拠点を守ろう」とコロナ禍を前後して進められたのが、愛知中高と名古屋初級の新校舎建設、東春初級の全面補修工事だった。

2018年に事業が提起されてから、今月13日の新校舎竣工祝賀会を開催するに至るまで、この約6年の歳月には、名古屋初級の移転に伴う一部資産の売却など、苦渋の決断や選択そして痛みも伴った。そうした中でも、関係者たちは「未来を創る」一心でこの事業を進めた。

在校生と同胞たちの参加型企画

建設委員会委員長の黄充宏さん(59、総聯豊橋支部委員長)は、「建物は完成したが、これからが大事」だとし、「いまの現状を直視し、皆で真剣に民族教育に向き合っていきたい」と話す。豊橋地域で長年、非専従支部委員長を務めてきた黄さんは、祝賀会の日、同胞たちでにぎわう運動場を見渡しながら、「今までの組織の良さというのは、『代を継いでいく』という精神、そして『喜びも痛みも分かち合う』人々の温かみだった。民族教育は、この心を育てる力を自然と養える。これこそ財産ではないか」と民族教育を守るための組織改革の必要性を説く。

「いい点も、課題もすべて直視し未来を創っていこう。いまこそ原点に戻れたら」(黄さん)

今回の建設事業では、2校の新校舎建設、1校の全面補修工事と同時に、中高の体育館および寄宿舎のリニューアルなども進められた。

在校生と同胞たちの参加型企画

自然に囲まれた丘の上にそびえたつ東海北信地方で唯一の中高級学校である愛知中高。同校の第1期卒業生で、文芸同東海の草創期のメンバーでもある朴玉連さん(90)は、祝賀会の日、一新された母校を久しぶりに訪ねた。

東京朝高に通っていた頃、布池の地に愛知中高ができると聞き、同校へ通うことになったという朴さんは、「私が通った頃は、日本のビルの4、5階を借りて学んだ。よその借家でも、ここで朝鮮のことばを学べることが本当に嬉しかった」と振り返る。そして「ウリハッキョが、誰がみても素晴らしいと思えるような場として、長く在り続けてほしい。そうしてこそ民族的なアイデンティティを守っていけるから」と力を込めた。

子ども、学校に向き合う

在校生たち

先代からのバトンを継ぎ、今の学校を支え、またその未来をつくろうと励む保護者や次世代たちは、祝賀会の日をどう迎えたのか。

中高オモニ会では、今年度に入り、月1回のキムチ販売「朝市」を行うなど、近隣住民らに「学校に来てもらい、買ってもらい、ウリハッキョを知ってもらう」活動に注力してきた。

子どもたちのために奔走する一方で、近年「朝高離れ」が現状としてある中、同会の権容子会長は「卒業生や同胞たちには、今の学校を見てほしいし、知ってほしい」と話す。

また同会副会長の閔文恵さん(46)は「いまこうして送りながらも、親として『朝高に送る』という自分の選択が正しいのか、その答えを求めている。だけども、いま高2の上の子が思春期の多感な時期を少し抜けて、のびのびと、本当に楽しそうに過ごしている姿をみると、この気持ちは朝高まで送らなければ分からなかったなと痛感する」と話す。

山口出身で「母校は一つも残ってない」という閔さんは「正解が分からない『VUCA(ブーカ)時代』といわれるいま、私たちがウリハッキョに求めることは何なんだろうと。朝高まで送ってみて気づけることがたくさんあるし、抜けていった親御さんたちが知らないのがすごく残念だと思うくらい、子どもが本当に充実した学校生活を送っている。自分の選択が正しかったのか、また考えがこのままでいいのか、子どもそして学校に向き合って考えなくてはならないと思うし、その答えを見つけるためにオモニ会の活動にも臨んでいる」と話した。

卒業生たち

「新しい施設が末長く活用されるために課題もたくさんある」。そう話すのは、南地域青商会の朴鐘寿幹事長(37)。南地域青商会では新校舎竣工に向け、少しでも手助けができたらと地元のお祭りに屋台を出すなどして財政活動に取り組んできた。

今は名古屋初級付属幼稚班に子どもが通っているが、自身が通った頃は「屋根が落ちてきてそれを防ぐためのネットを貼ったり心配の声がある中で通っていた」という。

新校舎が竣工したいま、「これまでの歴史があってこの日を迎えられている」ことを子どもたちに伝えていけたらと話す朴さん。「会員を増やすことが学生数を増やすことにも繋がるし、地域活性化が学校活性化にもつながると思う。青商会活動に一層力を入れて取り組みたい」と意気込んだ。

東春初級、愛知中高を卒業した金玲華さん(34、54期卒業生)は、いまは東京を拠点に生活するが、同級生に誘われ祝賀会に参加したという。

朝大生たちの公演

金さんが通った当時は、1学年に2班、全68人の同級生がいた。「裏も表もないフラットな関係だったから、いまも繋がっている。朝高で一生のトンムを得た」と金さん。「新しい校舎になり思い出があるのは体育館くらい。けれど帰れるホームみたいな場所って社会に出るとあまりない。そのホームがずっとあり続けてほしい」と話した。

三重から駆けつけた金章奎さん(32、56期卒業生)も同級生たちと行事に参加した一人だ。「朝高時代は、大学までの学生生活の中でも最も楽しかった青春だ」という金さんは現在、地元の三重県青商会で民族教育支援部長を務めている。「青商会で活動する姿をまずみてもらいたい。朝高そして朝大を出たら、こんな大人がいるんだと、その良さを姿で伝えていきたい」(金さん)

他方で、今回の祝賀会のために、32人の朝鮮大学校生たちも前日入りし、母校のためにと事前準備を担い、当日もスタッフとして奔走した。

愛知中高、名古屋初級、東春初級は新たな学び舎でのスタートを切った

長野初中、愛知中高を卒業した金素向さん(文学歴史学部3年)は、1期生にはじまって今の在校生たちまでが学べているのは「同胞たちの愛そのものだと感じた」と話す。朝高時代の最も楽しい思い出に、「家族」のように過ごした寄宿舎生活をあげた金さんは、大学卒業後、教員になる夢をもっている。

「愛知ハッキョの魅力は、たくさんの地域から人が集まる学校であること。長野、静岡、岐阜、三重、福井、石川まで、この地域の同胞たちの力が集まったときの可能性は計り知れない。卒業生として、愛知民族教育の未来をつくるためにこれからも力を添えたい」(金さん)

(韓賢珠、盧琴順)

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