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ウリハッキョは今~道内唯一の拠点・北海道初中高~(下)教員たち

2024年07月17日 08:30 民族教育

歩み始めた飛躍への道

「本当に良いソンセンニム(教員)たちが多い」。本連載の取材にあたり、現地で度々耳にした言葉だ。北海道初中高ではいま、初中級部生らが現校舎で学ぶ一方、24年度から高級部生たちが茨城初中高で合同生活に送っている。北海道民族教育の発展的な在り方を追求する過程で生まれたこの「変化」を前に、教員たちは決意を新たにしている。

魅力増幅への努力

北海道初中高の児童・生徒たち(写真はすべて学校提供)

各地の朝鮮学校では、保護者世代の同胞たちに入学・入園を呼びかける際、学校の魅力をどのように伝えようかと思いを巡らせる。SNSを駆使した多様な宣伝、同胞から同胞へと広まる口コミなど、これまでたくさんのアピールの形を見てきたが、その大前提は「実際に良い学校でなければならない」(北海道初中高オモニ会・李慧娘会長)。

では、冒頭で紹介したような北海道初中高の教員に対する評価がなぜ聞かれるようになったのか。個の能力に注目した声とともに多かったのが、「児童・生徒たちにとって良い教育、教養を追求しつづける」教員たちの姿勢を高く評価する声だった。

23年度「ウリマル(朝鮮語)をよく学び、よく使う模範学校」の称号を獲得した同校では、その前年の22年から同称号を得るための朝鮮語教育の強化に努めてきた。

今年から中級部教務主任を務める金妙香さん(27、国語分科長)によると、各地の称号獲得校の関係者に経験や秘訣を聞き、それを北海道初中高に合う形でアレンジし実践してきたという。

例えば、幼稚班がない同校では、初級部1年生のほとんどがゼロからウリマルを習い始める。そのため全校生「ウリマル運動」(朝鮮語を身近な言語とするための運動)において、初1にはじまり高級部生までをどうやって同じ運動に巻き込んでいくのかという課題がある中、昨年は初1から高級部までを網羅した縦3つにチームで組分けした運動を展開。週に一度、放課後に校内放送を通じて出題しライティングを行う「全校生聞き書き」を行った。その他にも教程の中で「なぜウリマルを使うのか」を考える機会を意識的に設けるなど、児童・生徒たちが共通して朝鮮語に触れ、朝鮮語で考え表現する時間を増やすための取り組みを重ねた。一方で、教員たちも「国語教育は、国語教員たちだけではなく全体でするもの」という共通認識をもち、学習資料担当、環境づくり担当、放送担当というように、全教員がウリマルと関連して一つ以上の役割を持つよう分担した。

今年度、同校では学習に関する模範学校の称号獲得を目指している。

金妙香さんは、このような取り組みにより「児童・生徒たちはウリマルの知識にとどまらず、祖国や同胞たちに対する感謝の念も抱くようになった。後に朝青運動に臨むかれらの姿勢の変化を見て、その意義を感じた」としながら、「教員たちがより良い学校のために尽くす集団でありたい」と付け加えた。

模索そして工夫

高級部生の合同生活に備え、担当教員たちはその対策にも熱を注いだ。

同校では茨城初中高関係者との協議を重ね、合同生活の事前練習として、昨年から学期ごとに生徒たちが3週間の合同生活を送るようにした。

英語の授業に臨む中級部生たち

それがプラスに作用した。朝青朝高委員会(学生委員会)の責任指導員を務める趙崇来さん(初級部教務主任を兼任)によると、今春から茨城の寄宿舎で生活し始めた生徒たちからは、「寄宿舎生活や部活動、学校の雰囲気の差に対する不安の声はあったものの、友人関係への不安の声は聞こえてこなかった」という。

また現在は、茨城、北海道で学生委員会を指導する教員たちと、朝青茨城・北海道本部委員長らが月1でオンライン会議を行っている。この会議では、合同朝高委員会の運営や生徒たちの教養・進路指導の在り方について、各学校の取り組みを共有。それらをすり合わせながらより良い指導方法を模索している。

さらに北海道朝高生として茨城で高級部生活を送る生徒らの状況を踏まえ、北海道初中高での行事にリモート参加させたり、今後は、学校の休み期間に実施される社会実践活動を充実させるといった工夫も重ねてくという。

「何をするにしてもメリット・デメリットはあるが、茨城で朝高生活を送ってよかったと生徒たちが思えるように、できることを尽くしたい」(趙さん)

北海道初中高の自慢

今年の運動会は221人の参加者で盛り上がった

取材期間のある日、学校へ行くと朴大宇校長が一つの資料を見せてくれた。それは、茨城朝高学区の初中級学校と、北海道初中高に通う児童・生徒らの交流を目的をとした「セッピョル学園」の、開始初期からの参加数がわかるもので、09年から現在までの減少幅をひと目で見て取ることができた。

「これは今後どの朝高も直面するだろう現実だと思う。ウリハッキョの初中級部で学んだ児童・生徒たちに、朝高への進学の道をつくるためには何をすべきか。いまも模索している」と朴校長は言う。

今年度同校では、14人の教職員が働く。そのうち、5人が北海道出身、9人が他地方出身で、20代、30代の若手教員たちがほとんどだ。

取材期間中も全力で児童・生徒らを接していた教員たち

朴校長は、そんな同僚たちの姿から、感動をもらい、奮い立たされた、とあるエピソードを話してくれた。

「教員たちとの面談のために教職同中央の役員が来たとき、ある教員に『北海道初中高の自慢は何か』と聞いたという。その教員は間髪入れずに『ハッセンです』と答えたそうだ。民族教育を通じて、のびのびと明るく、祖国愛や民族性を大事にする数々の人材が輩出されている。そうして育ったハッセンたちが自慢であり、誇りだという。ハッセンたちが輝く学校であり続けたい、そして真の人材を育てるために絶えず実践していきたいと思わせてくれた、思いがけない答えだった」(朴校長)

“期待してほしい”

北海道民族教育について討議する「セセデ民族教育協議会」が発足され約1年。学校ではこの間、セセデ協議会と共に、学校の魅力を増幅させるための対策を考え、講じてきた。「困難も少なくないが、言葉ではうまく説明できない希望がある」と朴大宇校長。その希望の背景には、「学校の良さを実感したうえで率先してアピールしてくれる」朝青や青商会世代の同胞たちがいる。そしてその世代が「動くきっかけ」をつくったのは「セセデ協議会」だと朴校長はいう。

「セセデ協議会」では今期、学齢前児童を主な対象とする幼児教室と共に、ルーツを学ばせたい、学びたいと思う同胞児童たちに民族教育を施す準正規教育の場、編入生の学校への入り口としての児童教室の開講に向けて精を出している。一方、朝高生を含め現在、全校生29人の同校では、毎年3~4人がコンスタントに入学するよう、30人台を維持することを目標に掲げ募集事業に励んでいる。

北海道初中高の生徒たち

「セセデ協議会」の事務局長で、北海道初中高オモニ会会長の李慧娘さんは、「子どもたちにはチョソンサラムとして育ってほしいし、愛を受けながら育っていることを実感してほしい。そしてその子どもたちが守りたいと思うハッキョを共に守る1人でありたい」と話す。

また中級部教務主任の金妙香さんは、今後5年を見据えて「東北6県がすべて入ると言われるほど広大な北海道には、この北海道初中高しかウリハッキョがない。その意味で、他とは比較にならないぐらいハッキョが重要な役割を持つと思っているし、北海道同胞社会の発展のために、この学校がより同胞たちが集まる場にならなくてはと思う」と強調する。

「現状への不安の声もあるが、むしろ期待してくださいと言いたい。この度の北海道初中高の変化は、学校がさらに大きく飛躍するための機会になると思っている。そして教員たちは皆、その方向へと歩んでいる」。(金さん)

次世代だからこそできる方法で、「100年学校」を目指す新たな学校の姿を描いていけたらー。取材中、度々そんな話をしていた金さん。その真っ直ぐな瞳には、同校教員たちの揺るぎない決意が映っているようだった。

(韓賢珠、終わり)

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