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千葉県の朝・日アーティスト団体「百美+」/関東大震災朝鮮人虐殺問題に取り組む

2024年07月09日 13:46 主要ニュース

美術の力を信じて101年目へ

「百美+」オリジナルのパッチづくりが体験できるワークショップが行われた(以下、写真はすべて「百美+」提供)

関東大震災朝鮮人虐殺から100年に際して昨年9月に発足した、千葉県に拠点を置く朝・日のアーティストや市民たちによる団体「百美(ひゃくび)+」(関東大震災朝鮮人虐殺から101年目を迎えて千葉県の美術シーンを再考しそのあり方を模索するプロジェクト)。同団体は、虐殺当時について学び知らせる場を作り、この問題において美術家が担える役割を模索し続けてきた。

千葉県と朝鮮人虐殺

フィールドワークで観音寺(柏市)にある普化鐘楼を訪ねている「百美+」メンバー_

1923年9月1日に発生した関東大震災では、10万人以上が死亡・行方不明とされた。当時、震災の渦中に「朝鮮人が井戸に毒を入れた」「朝鮮人が各地で放火している」などの流言飛語が関東圏を中心に広まり、各地で官民一体の朝鮮人虐殺が起きた。6千人以上(同胞と諸団体による「罹災同胞慰問班」が調査、『独立新聞』が犠牲者数を6,661人と発表)の朝鮮人が惨殺された。

千葉県内でも同様の朝鮮人虐殺があり、約360人が犠牲となったとされている。塚田村行田(現在の船橋市)にあった「海軍無線電信所船橋送信所」は、震災から2日後、内務省(当時)から受け取った流言飛語を日本各地に打電した場。県内には虐殺犠牲者を悼む慰霊碑がいくつも残されており、当時の虐殺と深い関わりがある地だ。

一方で、行田公園(船橋市)の跡地には「船橋無線塔記念碑」が建立されているが、「関東大震災時に救援電波を出し多くの人を助けた」としか記されていない。101年を迎えた現在、千葉県を含む関東圏で起きた朝鮮人虐殺に関する真相調査や、虐殺を主導した日本政府に対する責任追及は難航している。

千葉の美術シーンを再考

読書会の様子

関東大震災から100年目を迎えた昨年、8月1日~9月23日にかけて千葉県立中央博物館で展示会「関東大震災から100年―災害の記憶を未来に伝える」が開催された。しかしその場では、朝鮮人虐殺の事実や、それに関連した慰霊碑の存在などについて、一言の言及もなかった。「百美+」はこのような事実を受け止め、関東大震災朝鮮人虐殺に関わる県内の現状に、美術の力で変化をもたらすためのプロジェクトとして始動された。

「百美+」はこれまで、関東大震災時の朝鮮人虐殺の根本・背景・歴史を風化させず伝承し声をあげ、犠牲者への追悼を行うこと、②朝鮮人虐殺問題に向き合わない公的機関および美術シーンに対するアンチテーゼとして、フィールドワーク(FW)や学習会などを含む美術活動を行うこと、③千葉県内の若い作り手(創作意欲のある市民)たちを中心に、関心層をひろげること―の3つを目的とし、活動を展開してきた。

立ち上げ後は、当時の虐殺について学ぶ読書会や、船橋、八千代、習志野市など虐殺が実際に起きた場を巡るフィールドワークなどを主催してきた。活動を重ねるごとにプロジェクトの賛同者は増え、現在は約30人の朝・日有志たちがプロジェクトに携わっている。

101年目を迎えるにあたり、8月27日~9月1日にかけては、千葉市立美術館市民ギャラリーで展示会「関東大震災から101年―人災の記憶を未来に伝える」を開催する予定。これまでの活動を通じ、「百美+」メンバーが作成した創作物などが展示される。先立って、展示会開催の資金調達のために行われたクラウドファンディング(5月29日~6月31日)では、目標金額の146%を募ることに成功。目下、展示会の開催に向けて、着々と準備を進めている。

美術や創作通じ

「百美+」の特徴は、美術をメインテーマとし、歴史の問題に取り組んでいる点。「百美+」のメンバーたちは皆、「美術の力を信じて」活動に取り組んでいるという。

6月2日に千葉初中で、国際交流、地域貢献などを目的として開催された第11回千葉フレンドシップフェスタ(主催=千葉県青商会、朝青千葉県本部)の会場には、「百美+」が推薦する書籍の読書スペースを併設したワークショップが体験できるお店が出店された。プロジェクトのメンバーたちは、関東大震災朝鮮人虐殺や朝鮮学校に関する書籍を展示し、その隣で来場者とのワークショップに勤しんでいた。

プロジェクトの呼びかけ人であり、実行委員長を務める宋明樺さん(34)は、「言葉や文字で直接伝えると難しくても、美術や創作活動を通じて触れることで対話が生まれる。美術には、他にない角度から社会に切り込む力がある」とし、それが「美術の力」だと考える。「百美+」の活動は、学習会やフィールドワークに小さなワークショップ、創作活動を取り入れるよう工夫しているのが特徴の1つ。イベントを開催する際には差別を容認しないグラウンドルールを共有し、すべての参加者たちが安心できる場を作るよう努めているという。宋さんは、昨年に100年目を迎えた関東大震災朝鮮人虐殺について、「100年をイベントで終わらせては駄目だ。『百美+』は100年を機に問題の根本を問い、それが朝鮮学校の高校無償化制度除外をはじめとした、現在も存在する差別と地続きであることにまで目を向けるプロジェクトだ。『この事実は絶対になくならない、風化させない』という覚悟を持って取り組んでいきたい」と前を見据えた。

「百美+」の実行委員を務める鄭優希さん(29、千葉在住)は、母校の東京第5初中に通っていた頃、通学バスで毎日のように荒川の橋の上を渡っていた。大学生になり、そこが震災時に多くの朝鮮人が虐殺された旧四ツ木橋であることを知り、幼い頃に自身の祖父が付近を通る際、「あそこで朝鮮人が殺された」とよくつぶやいていた記憶も重なった。そうして、この虐殺の問題に関心を持つようになった。

鄭さんは、「美術通して虐殺の問題を語りやすいものにしたい。『百美+』では美術を通じて多彩な表現を試み、それぞれが自分の言葉で自由に表現するため、毎回の活動が充実している」と話し、一方で、「日本による植民地支配により、『朝鮮人が日本人より劣っている』という考えが定着し、虐殺が起こった。支配から解放されたとしても、問題は未だ解決していない。今後も周りと協力して、活動の輪を地道に広げていく」と語った。

宮川知宙さん(31、千葉出身、神奈川在住)は、「百美+」の活動をインスタグラムで知り、八千代・習志野市でのフィールドワークに参加した。その際、地元で起こった虐殺の事実について知らなかったことから、「義務教育までの段階でその事実を知らなかった自分への反省」を感じたという。宮川さんは、「その時代時代の若者が取り組むことで、歴史継承のサイクルが回る。一番大切なことは歴史の事実を忘れないことだ。そのためにも若者を中心に色々なアクションを起こすことが大切だと思う」と語った。

(朴忠信)

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