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〈ものがたりの中の女性たち70〉「映月庵の裏山の谷に暮らしています」―韓某夫人

2023年08月10日 07:12 寄稿

「青丘野談」表紙

あらすじ

崔某が家を探していたところ丁度いい賃貸物件が見つかり、家族と共に引っ越す。夜、なかなか寝付けずにいると、女が戸を開けて入って来る。行燈(あんどん)の側に立ったその女は顔見知りで、近所の両班家の下働きだった。容貌が美しい彼女といつか情を交わしたいと思いつつ機会がないままだったので、自ら夜更けに彼女が訪ねて来たことに喜んだ崔某は手招きするが、女は後ずさる。床から起き上がり抱きとめようとするが、女は後ろ足で戸を開けると外に出てしまう。崔某が急いで部屋から飛び出すと、女の姿はすでにない。翌日の夜、女はまた現れたが、やはり触れることはできない。すでにこの世の者ではなかったのだ。(以下略)

相國金某は若い頃友人数人と共に、白蓮(ペクリョン)峯の麓の映(ヨン)月(ウォル)庵で勉学にいそしんでいた。夜になると女の泣き声が聞こえ、幽霊が現れる。事情を聞いてみると、自分は通訳官の娘で名を韓某といい、夫が毒婦に惑わされ自分を殺害し谷に捨てたあげく、男を作って逃げたと言いふらしたという。女の幽霊は金相國が後に刑曹参議になり出世すると言う。そのあかつきには自分の無念を晴らしてほしいと請う。翌日、金相國が谷に赴き無残な遺体を発見するが、そのときは口をつぐみ誰にも知らせない。遂に女の幽霊が言った通り相國の位が参議に至ると、女の夫を自白させ処罰、彼女の遺体を丁寧に埋葬する。その夜、幽霊は相國の枕元に立ち深く感謝し、彼の将来について予言を残す。金相國の生涯は彼女が予言した通り、政争に巻き込まれ命を落としはするが、清廉潔白な愛国者として名を残し、その子孫たちは皆栄華に満ちた生涯を送る。

第七十話 幽霊譚

洋の東西を問わずどの国にも、その民族ごとに特色のある怪奇譚(たん)は存在する。幽霊や妖怪、怪物や幻獣、魔女や悪魔、妖精や精霊などその登場「人物」の「名」は多岐に渡る。夏の風物詩であったり、教訓的説話であったり、社会的弱者への共感や憐憫(れんびん)であったり、その内容は単なる「怖いもの見たさ」に留まらず、当時の社会的様相を暗示しながら展開されとても興味深い。

「幽霊譚」の一編目は朝鮮王朝時代の文人、任埅(イムバン)(1640~1724)が書いた神仙や妖怪などの奇異な話が主な内容の漢文野談集「天倪録(チョネロク)」に「崔僉使僑舎逢魔」として、二編目は朝鮮王朝後期の作者不明の漢文野談集「青丘(グ)野談」に「檢巖屍匹婦解寃」として収録されている。

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