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〈まるわかり! 法律で知る朝鮮 2〉朝鮮の憲法の内容と特徴/李泰一

2023年08月03日 08:30 寄稿

世界に類例のない人民憲法の魅力

■はじめに

周知の通り世界に存在するすべての主権国家は憲法を制定しており、憲法を通じて国政を運営している。平たくいうと、政府の行政活動はすべて憲法の制約を受けており、憲法の趣旨に反する行政活動はすべて無効となる。そのような意味で、近代以降、国の東西南北を問わず、憲法は国家の最高法規であり国家権力を縛る制限規範とされてきた。

このように、政府が憲法の内容を遵守し、憲法規範の制約の中で国政を行うという政治運営方式を立憲主義と言い、現在、多くの国家が実質的か形式的かの違いはあるとはいえ、立憲主義政体を採用・維持している。資本主義的立憲主義政体とは根本的に異なるが、朝鮮も憲法を通じて国家機関が活動を行うという点では共通している。

このような現状、すなわち、憲法が国家の基本法であり諸法律の立法的基礎であるという事実を考慮すると、朝鮮民主主義人民共和国社会主義憲法(以下、共和国憲法)について語ることなしには朝鮮の法律やその社会実像に迫ることは不可能であると言っても過言ではないだろう。

第2回となる本稿では、朝鮮における憲法の位置を再確認し、一般的な資本主義憲法や既存の社会主義憲法とは異なる共和国憲法の特徴をクローズアップする形で、共和国憲法の内容とその魅力に迫ってみたい。

■朝鮮における憲法の位置付け

現共和国憲法11条は「朝鮮民主主義人民共和国は朝鮮労働党の領導のもとすべての活動を行う」と規定している。この規定を短絡的に理解すると、朝鮮政府の役割は執権党である朝鮮労働党の政策を立法化しそれを執行することにあると読み取れるし、従来においては少なくともそのような理解で間違っていなかったと思われる。勤労人民大衆が国家主権と生産手段の主人となっている朝鮮においては、労働階級をはじめとする勤労人民大衆の要求と利害を代弁する労働党の政策を、政府が政治に具現することにまさに民意の具現があると言えるからである。初期の社会主義憲法が『金日成著作集』に掲載されているのもその現れであろう。したがって私自身の朝鮮民主主義人民共和国憲法の研究が、今までは朝鮮労働党の政策に対しての研究にのみ志向されていたのも自然の流れであったと弁明しうる。

しかしながら、2022年12月26日、驚くべき出来ごとが起こった。金正恩総書記が社会主義憲法制定50周年を記念する報告大会に自ら、直接参加されたのだ。社会主義憲法が制定された1972年以降、憲法節を祝う式典は何回も行われたが、最高指導者が参加されたことは一度もなかった。そればかりではない。政府の機関紙である民主朝鮮では、最近になって「社会主義憲法学習」という連載を始めた。党の機関紙である労働新聞では党の政策を解説し、政府の機関紙の民主朝鮮では憲法の解説をしている。ここにも、社会主義法治国家建設構想の一端が現れている。

このような状況を鑑みた場合、朝鮮では今、憲法を非常に重視しているということ、国家が人民の利害関係が反映された憲法の制約の中で最高人民会議において数多くの立法を行い政府の活動を促すことによって、党の政策が急ピッチに貫徹されていくという社会主義法治国家構想が実践されているのだ。すべての国家機関が、憲法の要求通りにのみ活動し、法をもって人民を守る活動を行うシステムを確立していっていると言えよう。

金正恩総書記が参席した社会主義憲法制定50周年記念報告大会(朝鮮中央通信=朝鮮通信、2022年12月26日、万寿台議事堂)

■朝鮮の社会主義憲法の魅力

紙面の関係上、本稿では、共和国憲法の魅力を網羅的に語ることはできないが、2019年憲法に焦点を当てて重点的にその特徴を述べてみたいと思う。

第一に、確認が必要な事柄は、共和国憲法は時代と人民大衆の要求に応じて適宜に「改正」されてきたが、重要な「目的規定」の改正は一度もなかったという点である。

1948年人民民主主義憲法、そして72年社会主義憲法が制定されて以来、92年憲法、98年憲法、2009年憲法、12年憲法、13年憲法、16年憲法、19年憲法と改正を繰り返しているが、それらは憲法の「手段部分」である国家機構の改編であって、人民大衆第一主義を具現した「目的部分」の改正ではない。憲法規定の「目的部分」とは「公民の権利」に関する規定部分だ。社会主義憲法の制定以来、今日まで、朝鮮公民の自主的権利は一度の修正や改正もなく一貫して憲法上明文で規定されている。国家の人民的性格が如実に現れている事例だ。

第二に、最高人民会議と国務委員長との関係を明確にし、金正恩総書記の領導体系を法的に担保した点である。

共和国憲法は、91条5項において、最高人民会議が国務委員長を選出・召喚する旨を規定し、100条において、国務委員長が国家を代表する最高指導者であることを規定し、101条において再度、国務委員長を朝鮮人民の総意として最高人民会議で選挙すること、そして、国務委員長は最高人民会議代議員にはなれないことを強調した。国務委員長の地位と権限が全人民の総意と信任に由来し、それらに基づいていることを謳った本規定は、最高指導者と全人民との間の渾然一体の関係性の法的表現であり、人民大衆第一主義の思想を具現した非常に意義のある規定であるといえよう。

第三に、金正恩時代の経済政策及び教育政策が憲法に明文化された点である。

内閣中心制、自力更生、12年制義務教育など、金正恩時代の社会主義強国建設のための諸施策が憲法上明文化されている。これらについての解説を次回に譲りたい。

* *

以上、共和国憲法の魅力と、その入り口部分についての若干の解説を試みたが、誤解を恐れずに言うならば、一般諸国では、憲法は飾りであり、政府の暴走を食い止めることができていないのが世の中の常である。既得権益にどっぷり浸かった執権政党が政策を法律に落とし込み、憲法をかれ・かのじょらの価値観で解釈するのが「普遍的現象」となっている。そのような中で、社会主義憲法が制定されて以来、今日まで公民の権利を明文化し続けてきた共和国憲法の魅力と意義は計り知れないと思われる。次回は、その具体的な内容について分析してみよう。

(朝鮮大学校政治経済学部学部長、教授)

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