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短編小説「通信兵」 10/朴雄傑

2023年06月17日 09:00 短編小説

しかしちっとも悲しくもなかったし、恐くもなかった。ただ、力がつきて通話を保つことができないまま死にはしないかということだけが心配であった。彼は必死になって気を失うまいと頑張った。急いで座りなおすと両方の線の端を指に巻きつけた。予想にたがわず腕がじーんとしびれてきた。彼はレシーバーを電線に連結させると、感電のショックで手を放すことのないようにもっとしっかり巻きつけた。傷が強くうずいた。まるで鋭利な刃物で傷口をえぐられているような痛みであった。電線を指に巻きつけたまま彼は砲弾の穴に身を横たえた。それから全神経をレシーバーに集中した。どっちからか把手を回す音がしばらく聞こえた。傷口がはげしくうずいた。彼は歯を食いしばってこらえた。体を流れていた電流が弱まった。

「洛東江、洛東江…」

その声は通信小隊長の声であった。よび声はしばらくとぎれたり、再び聞こえたりした。接触が悪いのではないかと思って、彼は両手の電線をいっそう強く握りしめた。

ところが、中隊の方ではその声が聞こえないらしく、こんどはそっちの方で把手を回しはじめた。彼はまたもや歯を食いしばって苦痛をこらえねばならなかった。レシーバーの響きまでが耳の穴を突き刺すように痛かった。しかし、彼がいま握りしめている個所以外には切れたところがないということがもうはっきりしてきた。彼はうれしかった。

自分さえ辛抱すれば電話は必ず通ずるに違いないのだ。

すると今度は通話がくる前にまた切れはしないかと思うと、そのことが心配になってきた。彼はあせった。体の電流が再び弱くなった。すると、「大同江、大同江…」と呼んでいる声が聞こえた。しかし大隊本部からは何の応答もなかった。彼はもどかしかった。自分のレシーバーで中継してやりたかった。だが両手がふさがっているので耳のレシーバーを口にもってくることができない。そうかといって手を動かせば線が切れるのである。いぜんとして「大同江、大同江」と呼ぶ声が聞こえた。レシーバーを口のところにもってこようと、首をねじまげ肩にあててこすったが、余りしっかりくくったために全然回らなかった。彼はわれ知らず空に向かって「大同江、大同江…」と中隊長と一緒になって叫んだ。

「洛東江、洛東江…」

こんどは別の声が流れてきた。それは間違いなく通信小隊長の声であった。彼は息を殺して待った。

「もしもし洛東江ですか?…」

「洛東江です!どうぞ」

「洛東江ですね?ほんとに洛東江ですね!?」

興奮した小隊長の声であった。中隊の方からそうだと答えると、話し手が代ったらしくこんどは別の声が聞こえた。

「もしもし、間違いなく洛東江だね?ほんとに生きているんだね!?」

興奮とうれしさをかくしきれない大隊長の声であった。

「間違いありません。大隊長同志ですか?」

(つづく)

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