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【連載】光るやいのちの芽~ハンセン病文学と朝鮮人~⑥

2023年06月22日 09:00 歴史

ハンセン病に関する企画展の展示物

【連載】「光るやいのちの芽~ハンセン病文学と朝鮮人~」では、創作を通じ希望や連帯を希求し、抵抗としての文学活動を展開した朝鮮人元患者らの詩を復刊した詩集「いのちの芽」から紹介していく。(書き手の名前は詩集に掲載された日本名表示のママ)

国本昭夫 1926年・朝鮮全羅南道生まれ。4歳の時に日本へ渡り、41年に多磨全生園に入園。43年に故郷に戻るが、その後再入園。50年に詩誌「灯泥」創刊。

口笛を吹く女

今夜も私は

口笛を吹く女に会いに行った

夜もすがら街路樹に立っている女に、

風のように来て風のように去ってゆく女に、

 

私は旧式な洋服と下駄ばきで

いろいろな想念にとりつかれながら、

いつもと同じ樹の下に

会いに行った。

女は会うとすぐ今夜が最後の別れだと云った。

私ははじめて。

女の瞳からぼろぼろ涙がこぼれおちるのを見て

泣きたくなった。

女は悲しげに哀れむように握手を求めた。

私は思いきり強く握りかえして眼をそらした。

(今の私にとって

女の涙などどうにもなりやしない、だが この

口笛ふく女の涙が今の私にとってはかけがいのない

尊いものだと思いながら)

 

やがて女は私から遠くへ去っていったが。

私の記憶の中ではいつも彼女の口笛だけが鮮かだ。

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