公式アカウント

「沈黙」の再生産

2022年12月15日 11:00 取材ノート 論説・コラム

パレスチナ自治区におけるイスラエルの不法占領を告発する、「沈黙を破る」という名の非政府組織がある。活動主体は、良心の呵責に苛まれた元イスラエル軍将兵たち。かれらの姿を追った映画「愛国の告白─沈黙を破るPart2─」は「加害者としての責任」を強く問いかける作品だった。

映画鑑賞後、「沈黙」を強いる主体は誰かについて考えた。

国家をはじめとする公権力は、自らの利益のために言論統制や情報操作を行い、権力に抗う市民たちの叫びを声なきものに変えようとする。人々がこのような政策の本質を認識せず、社会に蔓延する情報の真偽を正しく判断しなければ、差別や偏見の目で他者を見つめ、ひいては権力の社会的抑圧に加担しかねない。つまり、市民も権力の共犯者に、「沈黙」を強いる主体になりうる。

前述の映画では、真実を告発する元軍将兵に対して、誹謗中傷の声を浴びせるイスラエル社会が描かれている。この構図は、植民地支配の生き証人である在日朝鮮人に対して、ヘイトスピーチやヘイトクライムの矛先を向ける日本社会の在り方に似通っている。

「沈黙を破る」の若者たちが危惧していたのは、「沈黙」の再生産が引き起こす社会全体のモラル崩壊だ。日本における外国人の人権状況には「国際規範から大きく逸脱している」と国内外から非難が集中している。国の未来を憂うのなら、市民たち自らが歴史の被害者の声に耳を傾け、権力に対して声を上げなくてはならない。

(徳)

Facebook にシェア
LINEで送る