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〈東アジア共同WS〉犠牲者と私をつなぐ場所/参加者たちが集う理由

2022年08月30日 09:36 歴史

ワークショップ参加者らによる交流集会

北海道・朱鞠内で開催された「東アジア共同ワークショップ」(8月19日~20日)。朝鮮人をはじめとする強制労働犠牲者の遺骨発掘をきっかけに「国境を越えた市民運動」としてスタートしたこの取り組みは、97年の開始以来、約3000人が参加してきた。日本、朝鮮、台湾、アイヌなど、さまざまバックグラウンドを持つ人々が、強制労働の現場に共に立ち、「日本の加害の側面」を異なる立場から共有する。ワークショップに集う参加者たちは何を思うのか。その声を紹介する。(まとめ・韓賢珠)

佐々木あずささん(61、スクールカウンセラー)

80年代に学生時代を過ごし、ベトナム戦争下のアメリカ文学を勉強した。東南アジア各国を歩いた当時、日本の加害が印された戦争記念碑や、家族が日本軍に殺されたことを事実として教えてくれた戦争被害者らと出会った。

戦争加害について学びに来た場所で、現地の人に「日本にはそういう問題はないの?あるでしょ」と、「あなたがやることは日本の若い人たちに、あなたが見て聞き、教えてもらったことを伝えることでしょ」と言われ、日本にも加害の歴史があるではないかと我に返った。その後、後世へ伝えていくために高校教員を約20年務めた。

この場所に来るのは、私が生きる前にあった歴史を次につなげるため。歴史を未来につなげるのが私の仕事だ。敵対したままでは何も始まらず、まずは向かい合うことに意味がある。常にその視点を持ちたい。

本庄十喜さん(42、北海道教育大学准教授)

気づくと在日朝鮮人の人権回復をめぐる運動などを研究対象にしてきた経緯があり、札幌で就職後、この取り組みを知るようになり今に至る。大学生の頃、「つくる会」の教科書が検定合格し、「慰安婦」という言葉が世間で聞かれるようになっていた。

当時の自分は何もわからず、それについて調べていく中で、「慰安婦」世代の女性が自分の母親と同世代で、両者を重ね合わせた徐京植さんの文章に出会い、すごく衝撃を受けた。その過程で自分は植民地支配とどう向き合うかと考えるようになったことが、現在のベースにある。

教育者にとっての植民地支配や主義との向き合い方そして責任は、加害を含む歴史を、子どもたちに伝えていくことだと考える。

強制労働の跡地をまわったフィールドワーク

葛野次雄さん(68、静内アイヌ協会会長)

いま北海道と呼ばれるエゾ地は、私たちアイヌの人々からすれば、どうやって日本国が奪ったのかとなる。私は先祖から伝わる180年前のアイヌの家系図を持っているし、移住という名で侵略し先住民族を追いやったのは紛れもなく日本人だ。

最近は、ウクライナでの戦争が話題となっているが、私からすれば、日本人は自分たちの足元をまず見るべき。過去に悪いことをしなかったのか、と問いたい。

例えば広島や長崎への原爆投下を語り継ぐこともそう。かつて朝鮮や中国など何千万というアジアの人々を殺した過去があり、それを一緒に考えるべきではないかと思う。そのような加害についても共に考える取り組みを長年やってきた場所が、この共同ワークショップではないか。

櫻井すみれさん(31、東京大学大学院博士課程)

フィールドワークもそうだが、このワークショップの醍醐味は自己紹介などをする懇親会の場。どうして自分がここに来たのか、皆個人の考えを話し、聞く。戦後補償の問題解決において、国や企業の謝罪や補償と共に、こうした市民運動が大事だと強く感じた。

いまは、市民の動きを強制連行や労働をめぐる歴史として語っていこうと、神奈川・相模湖ダムの歴史を記録する市民運動について研究している。このテーマについて自分で説明できるようになりたいし、いろんな人と社会をつくっていく時に歴史の縦軸で物事を考えようといえる人になりたい。

最近は、歴史が自分の生活とどう繋がっているのか、そもそもそういう視点で歴史をみるということが、提示されていないのかもしれない。市民運動の歴史に着目するのは、自分と歴史をつなげる意味でも重要だと考えている。

1982年に掘り起こされた遺骨(「笹の墓標展示館」再建CFサイトより)

金英鉉さん(38、笹の墓標展示館再生・和解と平和の森を創る実行委員会/NPO法人東アジア市民ネットワーク事務局)

「旧光顕寺・笹の墓標展示館」の倒壊を知り、2年程前から北海道の多度志に移り住み、展示館再生のための事務局をしている。この2年の間、何度も多度志から朱鞠内を訪れた。朱鞠内へ向かう道中、舗装された道路や、トンネル、白く花開いた美しいそば畑を通りながらいつも思うことは、70年以上前、朝鮮半島から強制連行され、釜山から下関へと関釜連絡船に乗せられ、日本を縦断しながら牛馬のように列車やトラックで北海道まで運ばれてきた朝鮮人は何を考えただろうかということ。北海道の雄大さを傍目に、この道を運ばれ犠牲になった朝鮮人を思うと、我が祖父の不幸を思うように胸が締め付けられる。だからこそ私は在日朝鮮人として、この課題に取り組んでいる。

朱鞠内にはいまだに戦後を迎えられていない遺骨が数多くある。このご遺骨にとっての戦後とはいつになるのか。そしてどのように訪れるのか。ここに集まる市民たちの営みが続き、過去の反省のもとに未来へと進むならば、必ずや日本にも戦後が訪れ、2度と戦前を迎えることがないと確信する。(クラウドファンディングページの活動報告より引用)

遺骨発掘現場(朱鞠内共同墓地)に造られた朝鮮式の墓と追悼碑

道又嘉織さん(38、新潟市)

2002年に初参加した当時はまだ18歳だった。その前年に、姉がワークショップに参加したこと、一方で在日朝鮮人と出会ったことが、私の参加経緯にある。

出会った方は、親交のある同級生のお兄さんで、日本名を使っているけど、自分は在日朝鮮人だと、だからこれまで学校で習ってきた国語や歴史は、自分の言葉や歴史ではないと、打ち明けられた。聞いた時はすごく衝撃で、身近な存在だったかれのことを、わかっていなかった自分自身にショックを受けた。この経験が、歴史を知りたい気持ちが芽生えるベースになった。

参加し続けるのは、単純にすごく楽しいし、大好きな皆に会いたいから。けどそれだけではない。

ワークショップで出会った在日朝鮮人の友人と、フィールドワークをしたとき、「だから日本人が嫌いなんだ」といわれたことや、ワークショップでの交流の場で、傷ついた経験を語る在日朝鮮人を前に悲しくなった。自分が直接的に傷つけたわけではないものの、大きくみれば加害の立場にいることへのショックを感じたのだと思う。今思えばワークショップはその隔たりを乗り越えようとする場所でもあった。

今回のフィールドワークでは「自分が説明する立場になるとしたらどういう語りをするだろうか」という視点で参加した。殿平さんたちは、自身が行動し、いろんな人と出会い感じたことが語りの土台になっているが、そこまでの「引き出し」はまだ自分にはない。けれど先生たちが大事にしてきた考え方や姿勢を、自分なりに感じたことと共に、引き継いでいけたらと思う。展示館の倒壊や庫裏の焼失など、すごくショックだったが、よくよく考えてみるとずっとそこにあることは当たり前ではない。そのことを気づかせてもらったし、展示館という建物だけでなく、長年運動を牽引してきた方々の存在や、ここでのつながりもそうだ。すごく地道な積み重ねの中で、誰かの思いがあって形になっている。

私にとって加害と向き合うことは、ただその立場にいることに傷つき苦しむのではなく、希望ある未来を手繰り寄せるために考え、行動することだ。これまで被害者の遺骨奉還は、朝鮮半島の南側にしかできていない。だから今後は、北側にも奉還したい。

光顕寺にあった強制労働犠牲者の位牌(「笹の墓標展示館」再建CFサイトより)

殿平善彦さん(NPO法人東アジア市民ネットワーク代表理事、一乗寺住職、東アジア共同ワークショップ開催実行委員会共同代表)

「国境や民族を超えた人々が集う場」としてワークショップが機能していることを改めて感じたし、今回は昔からの参加者だけでなく、新たに関心をもった若い人たちが参加してくれた。個人と個人が出会い、語り合い、思いを共有しながら意見をたたかわせる。そしてそこに共通するのは、強制労働犠牲者に対する追悼の思いと、死者と向き合おうとする人々の思いだ。かつて、70数年前に強制労働で犠牲となった人々がどういう思いを抱いていたのか、日本の加害の歴史を背負った朱鞠内の地でワークショップをやる意味もそこにある。過去への想像力を働かせることが可能な場所だ。

かつて、歴史学者の姜萬吉先生は南北朝鮮の統一、日本の植民地支配に対する反省、この二つができれば、東アジアで平和の共同体をつくれるとおっしゃった。しかし考えてみれば、両方ともできていない。東アジア共同ワークショップは、規模は小さくても、そのための取り組みを市民たちの手で継続してやってきた。

責任とは何か。なんといっても、遺骨を掘り、死者と直接向き合った経験が、責任の出所にある。加害と被害という関係性のなかで、被害者が告発して加害者が謝罪をするという構造があるが、それだけでは和解はできない。和解というのは、過去を謝罪するだけでなく、互いのつながりが回復するという意味があると思う。ワークショップもその一環だ。

例えば朝鮮半島にルーツを持つ参加者は被害者の側で、こちらは加害者の側となる。でも、犠牲者の遺骨つまりは死者を目の前にすると、その両者がまずは向き合い、次に同じ方向を向くことができるのではないか。死者に対する共通の思いがベースにあれば、人間関係が育つ余地があると思う。この問題はまだ解決していない。だからこそ、これからもワークショップを繋いでいけたら。

【関連情報】

巡回展「強制労働犠牲者の史実を伝える~北海道「笹の墓標展示館」があなたの街へ」

  • 9月21日〜25日 大阪・津村別院
  • 10月5日~13日 東京・築地本願寺
  • 10月17日~25日 京都・西本願寺 聞法会館

笹の墓標展示館再生・和解と平和の森を創る実行委員会では、展示館再建にむけた募金協力を引き続き呼びかけている。

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