核武力強化の背景と目的 ④「力と力の激突」を回避する道
2022年06月15日 09:55 軍事課題は朝鮮半島情勢の安定的管理
我々の主敵は戦争そのものであり、特定の国家や勢力ではないという立場を朝鮮は最高指導者の公開演説によって示した。米国とその追従勢力はこれに応えず、朝鮮の自衛力強化措置を口実にして対決を激化させている。一方は朝鮮半島情勢の安定的管理に尽力し、もう一方が旧態依然の態度で見境なく戦争の火種を撒いている状況だ。
流動化する情勢と高まる安保不安
冷戦終息後、「唯一超大国」を自称し、「一極化された世界」の実現を豪語していた米国の衰退没落が可視化されてから久しい。
下り坂を転げ落ちる者たちが強行した分別なき覇権主義政策はウクライナ紛争を引き起こし、武力衝突をめぐり世界を米国に従う国々とそうでない国々に分けた。 新冷戦の構図が一層深まる中、国際情勢が流動化し各国の安全保障境が不安定になっている。
国際社会では、米国の一方的な強権発動が庇護・黙認された「ポスト冷戦」時代の終焉とともに、世界的規模で軍拡が進むという展望が示されている。ウクライナ紛争ぼっ発後、大小の国々が敵味方を区分けし、最新兵器の供与と売買、軍事同盟の強化について論じている。文字通り力と力が激しく激突する世界の姿だ。
軍備競争が激化する中で、焦点となるのが「核兵器」に対する規定だ。
米国とソ連が対立した冷戦期には、どちらか一方が先制的に核兵器を使用すれば、もう一方は被害を免れた核戦力で確実に報復することを保証するというMAD(Mutual Assured Destruction 相互確証破壊)に基づいて核戦略が立てられた。 「核戦争に対する恐怖」が核兵器の使用を躊躇させるという理論が思考と行動の前提となっていた。
ところが「ポスト冷戦」の終焉とともに始まる国際秩序の再編期には、核保有国とその核の傘に守られた国々が核兵器の戦闘力に対する期待、例えば破壊力を抑えた戦術核兵器の使用を前提として軍事戦略を遂行する可能性が論じられている。
実際、ウクライナ紛争の渦中に米国のバイデン政権が発表した「核態勢見直し(NPR)」報告書は、核兵器使用を核攻撃に対する反撃に制限するという「唯一の目的」構想を否定し、「極端な状況」では米国と同盟国・友好国の核心的利益の防御のために核兵器を使用することを公言している。
東北アジアの危険な発火点
国際情勢が流動化し、各国の安全保障環境が不安定化する時点で、長きにわたる交戦相手である米国が核先制攻撃の可能性を示唆する以上、朝鮮は核戦争抑止力を疑いの余地がないほど最大限に強化しなければならない。
「わが軍事力の基本をなす核武力を質量ともに強化し、任意の戦争状況下で異なる作戦の目的と任務に応じて異なる手段で核戦闘能力を発揮できるようにしなければならない」という4.25閲兵式演説の一節は、まさにそのような覚悟と決心を表明したものだ。
ウクライナ紛争後、世界の他の地域でもことが起きる可能性があるという懸念が広がり、米国が以前から中国圧迫のために緊張を煽っていた台湾海峡に関心が集まった。
ところが、より深刻な武力衝突の危険性を孕む地域が朝鮮半島だ。ここは冷戦期に始まった戦闘行為を一時中断したに過ぎない停戦体制下にある。 「終わらない戦争」が現在進行形で続いている。
停戦後も米国は朝鮮半島の軍事的緊張を常態化させてきた。
近年は人為的につくる戦争危機を朝鮮の隣国である中国を牽制し圧迫するための包囲環形成の一環とし、軍事挑発のレベルを階段式に引き上げてきた。米国、日本、南朝鮮の三角軍事同盟を強化し朝鮮を狙った攻撃態勢を整えることを覇権維持のための必須プロセスとして定めて実践してきた。
しかし「異なる手段で核戦闘能力を発揮」することができる朝鮮を敵と見なし、戦争の火種を撒くことは危険極まりない自滅行為だ。
朝鮮半島で戦争が起きても「米国本土は無関係で安全だ」と言い放つことができたのは昔のことだ。そして米軍の海外基地はアジア太平洋地域にも存在する。
鋭い軍事的緊張が続き、大国の利害関係が交差する朝鮮半島で武力衝突が起きれば、局地戦に限定されずに周辺国が巻き込まれる可能性がある。米国が核先制攻撃態勢をとっている以上、いくら小規模でも一度、火花が散れば核武力が投入される戦争に拡大しないとは限らない。
朝鮮敵視の対決路線は愚行
朝鮮は、誰も望まない戦争を防ぐために核武力を強化している。自衛力を備えることは正当な主権行使であり、これに因縁をつけなければ、朝鮮半島の緊張が誘発されることは決してないとの立場も表明している。
米国が朝鮮の戦略戦術兵器開発に「国際社会に対する挑発」というレッテルを貼り、軍事的脅威と制裁の強度を引き上げても、この国の国防発展は止まらず、朝鮮半島の緊張を極度に高めるだけだ。東北アジアの中心に位置する軍事的対立地域の導火線が短くなるほど米国の国家安全保障は危うくなる。
米国にとっては、朝鮮の核をなくすと言って対決を煽るよりも、朝鮮の核が自国の脅威にならないようにする方法を考えるのが容易で有益だ。
ウクライナ紛争に便乗して軍国化を進めようとする日本の右翼勢力は、朝鮮のミサイル試射を口実にして「反撃能力」さらには「核共有」の必要性を主張するが、国民の絶対的多数は日本が戦争の最前線に立つことで反撃の対象となることを望んでいない。
「北先制打撃」を主張した尹錫悦大統領は、南の国防白書に「北は主敵」と明記すると公約したが、今日の情勢下では、些細な誤判や相手を刺激する言動が危険な衝突を引き起こしかねない。特に金正恩総書記が公言した朝鮮の戦争主敵論、国際情勢がどのように変化しても同じ民族同士が争う悲劇、第2の朝鮮戦争を起こさないという断固たる意志を誤って判断してはならない。
朝鮮半島と周辺地域における軍事的優劣の形勢は、冷戦期とまったく異なる。
ここで力と力の激突を回避し戦争を防ぐためには、すべての関係国が何をして何をしてはならないかを熟慮し、情勢の安定的管理のために慎重に行動しなければならない。(金志永)