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記事化されたその後は?

2022年04月25日 13:00 取材ノート 論説・コラム

「差別の問題に対して、メディアの発信の仕方を一緒に考えていきたい。この問題を扱うとき、当事者のコメントが必要になると思うが、当事者の声を大事にすることと、当事者の声に頼りすぎてしまう報道は少し違ってくると思っている。どんな行動がトラウマをえぐらずに、かつ社会に対して投げかけられる報道になるのかを考えていくことができたら」。

これは、フォトジャーナリストの安田菜津紀さんが、昨年12月に損害賠償請求訴訟を起こした当時、記者会見場で語っていた言葉だ。裁判は、安田さんが在日同胞2世である亡父に関する記事の掲載後、ネット上での誹謗中傷投稿により人格権を侵害されたなどとして、投稿者を相手に起こしたもの。提訴直後、各紙メディアは著名ジャーナリストの裁判事件ということもあり、かのじょの提訴事実をこぞって報道したが、日本のマスメディア批判でもあった先述の内容については、筆者が確認した限り、どの媒体も言及していなかった。

昨今、性差別や障害者差別、外国人排斥など差別と関連するニュースには、当事者の声が欠かせない要素となり記事化される。しかし、記事化されたその後はどうか?SNSという大海原で回収不可能なものとなり、安田さんのように、事実と異なる「事実」が独り歩きして、誹謗中傷という形で当事者にふりかかる例が少なくない。

今日も無数の記事がさまざまな媒体を通じて拡散されている。声の主を想像し尊重する取材を心掛けたい。

(賢)

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