相次ぐヘイトクライム受け、緊急院内集会【関連年表あり】
2022年02月28日 09:00 権利差別的動機の犯罪、早急な対策を/京都・ウトロ地区関係者らも参加
昨年8月、在日朝鮮人集住地区であるウトロ地区(京都府宇治市)で放火事件が発生するなど、相次ぐ在日朝鮮人へのヘイトクライム(差別的動機に基づく犯罪)を受けて、24日、「今こそ国によるヘイトクライム対策の実現を求める院内集会」が衆議院第2議員会館で開かれた。集会は、外国人人権法連絡会など人権団体からなる実行委員会が主催。ヘイトクライムが「重大な犯罪であり深刻な社会問題」だとして、日本政府に対し、緊急にとるべきヘイトクライム対策(別表参照)について提言した。
弁護士の師岡康子さんが司会を務めるなか、集会では、はじめに、一般財団法人ウトロ民間基金財団理事の金秀煥さん(南山城同胞生活センター代表)が発言。金さんは発言冒頭、「歴史的な背景のうえに今般の放火事件がある」として、ウトロ地区の歴史について説明した。
京都・ウトロ地区は、朝鮮が日本の植民地支配下にあった1940年から、戦時国策として進められた京都飛行場建設に伴い集められた朝鮮人労働者らの飯場が、後に集落を形成し生まれた背景がある。日本の敗戦とともに同飛行場の建設は中断。当時、徴用や貧困から逃れようと飛行場建設に従事した約1,300人の朝鮮人は失業者となったが、祖国の情勢混乱や生活基盤の喪失などにより、ウトロに根を下ろすに至った。他方で、ウトロ地区は生活インフラが整備されず、住民たちは劣悪な衛生環境のなか「社会において異質なもの、汚いもの、怖いものと認識され、分断と差別のなかで暮らしていた」。
金さんは、そのような歴史的背景を持つ同地区で、人種差別的な動機に基づく放火事件が発生したことについて「そこ(放火行為)に込められた憎悪や偏見が、個人のものではなく、社会の問題として突きつけられた」と発言。また、放火と判明した直後、金さんが住民らにその旨を伝えると「やっぱりな。そうだと思った」と返答があったことを明らかにしながら「若い頃に差別を受けて人間扱いされない経験をされた人たちに、まだそういう思いをさせてしまう現実が苦しい」と語った。さらには、今回被害を受けた民家の住民が、事件に関するSNS上の「声」によって受けた二次被害についても強調。「(住民は)自分の家が焼かれ、下手したら子どもが大変なことになっていたかもしれない。しかしSNSでは『全部焼けたらよかったのに』『愛国無罪だ』『放火は悪いけどウトロの朝鮮人も悪い』といった放火を擁護するような言説があふれた。それを目にした住民は『体が震えて眠れなかった』と話していた」。
発言の最後、「事件の放火犯のような人間を生み出している社会に対し、私たちは今後どう向き合っていくのか」と問いを投げかけた金さん。「住民たちに、このような事件がもう二度と起こらない社会になったとメッセージを届けることが私の課題だ。今後ウトロの歴史を語るとき、この事件をめぐり社会が前進したと振り返れるようにしたい」と語った。
一方、集会には、日本共産党の本村伸子衆議院議員、立憲民主党の米山隆一衆議院議員、近藤昭一衆議院議員、大河原雅子衆議院議員、有田芳生参議院議員も参加しそれぞれ発言。
大河原雅子衆議院議員は「(事件を通じて)日常の中にたくさんのレイシズムの種があることを気づかされた」と述べながら「ヘイトクライムの現状を認識し、しっかりとなくしていく必要がある。(現状の解消は)一人ひとりのアクションにかかっている」と強調した。
また、有田芳生参議院議員は「ウトロ放火事件で、火事が起きた時は各紙が大きく報じたが、差別的動機の放火だと判明して以降の報道が全然なかった。国会議員や地方議員は現場を見ようともしない。来年は関東大震災時の虐殺から100年だ。新たな段階での闘いを共に続けていきたい」と、今後もヘイトクライム被害者と共闘する意思をあらわにした。
社会の無反応と権力の沈黙
「今や在日外国人との交流のための市民施設、民団、ウトロなど一見成り立ちの背景が異なる対象さえもがヘイトクライムの標的となっている。被害者に共通するのは朝鮮半島出身者、その一点だけだ。加害の内容は、過激な罵詈雑言から直接の脅迫、さらには火を放つという抹殺を意図する象徴的行為におよび過激さを増している。私たちは生きていてはいけない存在なのでしょうか」
この日の集会では、ウトロ地区出身で京都第1初級(当時)襲撃事件の学園側代理人を務めた具良鈺さん(弁護士)もオンラインで参加。具さんは、ウトロコミュニティへの思いや、歴史的につづく在日同胞へのヘイトクライム、ウトロ土地裁判(注)や京都第1初級襲撃事件を通じて感じた自身の葛藤や気づきなどについて、率直な思いを語った。
具さんは、とりわけ社会の無反応と権力の沈黙が、深刻さを増すヘイトの現状を招いていると指摘したうえで「遠い外国で起こった人権侵害について、国際協力に乗り出す日本が、なぜ最も身近で国内にいる、在日朝鮮人への人権侵害にだんまりを決め込むのか。被害実態に目を向け、ヘイトを許さないという強いメッセージを日本社会で共有していけたら」と語った。
つづいて、川崎のヘイトクライム被害に関する報告があったほか、外国人人権法連絡会の殷勇基さん(弁護士)が、日本政府に求めるヘイトクライム対策について、12の提言(別表参照)を発表した。
閉会に先立ち、師岡康子弁護士は「京都第1初級襲撃事件は、民事では明確に人種差別だと認定されたが、刑事では全く認定されない。これまで発生したヘイトクライム事件も、いずれも差別的な動機だが、それが認定されず重く処罰されない。この現実から出発して、国が第一歩を踏み出すべきだというのが今回の提言だ」と発言。そのうえで同氏は、ヘイトスピーチの状況に反対する世論が起きたことで、解消法が制定された背景を改めて強調しながら「被害者の声を聞き『頑張ってください』ではなく、差別を放置している私たちが責任をもって声をあげていきましょう」と呼びかけた。
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既報のとおり、昨年8月30日にウトロ地区の住宅などが焼ける火災が発生。同12月に放火容疑で奈良県在住の有本匠吾容疑者(22)が逮捕された。その後、放火の罪で起訴された有本被告は、ウトロ地区を狙った動機について「不法占有といった公に認められていない方々の滞在に関して問題提起を行うことが目的だった」と述べているという。同被告は、昨年7月にも民団愛知県本部事務所と名古屋韓国学校の施設に放火したとして現在、放火や器物破損などの罪に問われている。
(韓賢珠)
在日同胞と関連した近年のヘイトクライム(参考・資料「ヘイトクライム対策の提言」[外国人人権法連絡会作成])
- 09年12月4日 京都第1初級襲撃事件:人種差別と認定。威力業務妨害罪等により最長懲役2年(執行猶予4年)
- 10年4月14日 徳島県教組襲撃事件:傷害罪等により最長懲役2年(執行猶予5年)
- 15年3月25日 韓国文化院放火事件:建造物損壊罪等により懲役2年
- 16年2月(被害届受理日)沖縄在日同胞男性への匿名ヘイト事件:名誉毀損罪で初の処罰。罰金10万(略式命令)。
- 16年6月17日~30日 福岡ヘイトビラ事件:建造物侵入罪により懲役1年(執行猶予3年)
- 16年6月19日~17年9月10日 川崎在日同胞女性への匿名ヘイト事件:脅迫罪で書類送検されるも不起訴に。県迷惑防止条例違反で罰金30万(略式命令)。
- 17年4月23日 京都朝鮮学園名誉棄損事件:名誉毀損罪により罰金50万
- 17年5月23日 イオ信組放火未遂事件:威力業務妨害罪等により懲役2年(執行猶予4年)
- 18年2月23日 総聯中央本部銃撃事件:銃刀法違反等により最長懲役8年
- 18年1月22日 川崎在日同胞中学生への匿名ヘイト事件:人種差別と認定。侮辱罪で初の処罰。科料9千円(略式命令)
- 19年8月 在日韓国大使館への銃弾・脅迫文送付事件:被疑者不明
- 19年11月~20年7月 川崎市ふれあい館脅迫はがき事件:威力業務妨害罪により懲役1年
- 21年3月26日 川崎在日同胞女性への脅迫封書事件:被疑者不明
- 21年7月24日 民団愛知県本部および名古屋韓国学校放火事件:器物損壊罪により起訴
- 21年8月30日 ウトロ放火事件:非現住建造物等放火罪により起訴
※このほかにも18年から20年にかけて、川崎市、京都市など各地の公園や公衆トイレでヘイト落書きが見つかるなどしたが、いずれも被疑者不明。
ウトロ土地裁判とは
ウトロ地区は戦後、地区一帯の所有権が飛行場の一角を担った国策企業から民間企業(日産車体)へと引き継がれ、87年、住民たちに知らされることなく土地が売却された。89年、ウトロ住民らは買い取り手の不動産会社(西日本殖産)から、土地の明け渡しをめぐる訴訟を提起され、2000年、最高裁で住民側の立ち退きを命じる判決が確定した。「植民地支配と戦争に起因するウトロ問題の本質を考慮しないまま、日本の司法によって『不法占拠者』にさせられた」(ウトロ平和祈念館~ウトロの歴史より)。その後、2007年10月にウトロと西日本殖産との間で土地の売買契約が締結され、同年12月、国・京都府、宇治市による「ウトロ地区住環境改善検討協議会」が発足。その一連の流れのなかで、宇治市が事業主体となり、ウトロの住環境改善事業の一環として、市営住宅を建設。これにより長年にわたる土地問題が決着した。18年時点で、同市営住宅には40世帯が入居、2023年までにすべての住民が移り住む予定だ。
ヘイトクライム対策12の提言
- 日本政府・国会によるヘイト根絶宣言
- ヘイト対策に関する担当部署を内閣府に設置
- マイノリティ当事者等による審議会の設置
- ヘイト事件発生時に、首長等による反ヘイト公言
- 被害者に対する支援、サポート
- 加害者に対する反差別研修プログラム
- 現行法による対応、人種主義的動機の量刑ガイドライン作成
- 法執行官に対する研修プログラムの策定と実施、プロジェクトチームの設置
- ヘイトクライムの捜査、公訴の提起と判決状況に関する調査実施
- 被害通報等の容易化に向けた体制整備
- ヘイトスピーチの禁止と制裁等
- 包括的な人種差別禁止法の制定、救済機関の設置、人種差別撤廃条約の個人通報制度への加入