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〈本の紹介〉平壌美術(ピョンヤン・アート)―朝鮮画の正体/ムン・ボムガン著、白凛訳

2021年03月28日 11:42 文化・歴史

朝鮮画の現在を照らす

本書は、2018年3月に南朝鮮で刊行された朝鮮画に関する記録図書「평양미술, 조선화 너는 누구냐」の日本語版となる。(2019年12月、米国で英語版「North Korean Art: The Enigmatic World of Chosonhwa」も出版されている。)

青土社。定価=5,800(税別)。03-3291-9831。

著者は南朝鮮出身で、米ジョージタウン大学美術科教授の在米同胞。米国留学後、本格的に美術を学び、その後アーティスト活動を展開していくなかで朝鮮画に対する関心を持つようになった。

本書には、著者が2011年から16年までの6年にわたり、計9回平壌を訪問し行った実態調査と資料収集、朝鮮の美術関係者へのインタビューなどから朝鮮美術の象徴ともいえる朝鮮画について分析・追究した内容が収録されている。

滞在期間、朝鮮海外同胞援護委員会の協力のもと、万寿台創作社や白虎創作社など朝鮮の主要創作社のほか、国家美術展覧会場、平壌美術大学といった朝鮮画の作品が展示されている数々の現場を訪ねながら研究を重ねた著者。その集大成ともいえる70以上の作品と、朝鮮のトップクラスの画家など約40人におよぶインタビューが収録された本書からは、研究の緻密さと朝鮮画にかける著者の熱い思いが垣間見える。

また本書がよりいっそう特徴的なのは、大学まで民族教育を受け、その後研究者として在日朝鮮人美術史研究の第1線で活躍する在日同胞3世・白凛氏が翻訳を担当したこと。

白氏は訳者を引き受けた理由について、本書でこう話している。

「著者の視点と実践について共感する点が多く、祖国の美術を日本で多くの人々に紹介することに大きな意義があると判断した」(訳者あとがきより)

北と南、在日同胞の出会いがもたらした本書の出版は、祖国分断から70年以上が経過したいま、世界各地にディアスポラの民として生きる朝鮮半島ルーツの人々が、美術を通じコンセンサスを形成した一例としてその意義が大きい。

そして何よりも朝鮮画の現在を照らした本書は、研究課題が蓄積された朝鮮美術という対象を紐解くうえで貴重な資料となるだろう。

(韓賢珠)

出版にあたり、著者・ムンボムガン氏、訳者・白凛氏が本紙に寄せたコメントを以下紹介する(著者のコメントは白凛氏が訳を担当)。

著者・ムンボムガン氏

本書(訳注:2018年3月刊行の『平壌美術,朝鮮画の正体』の原著)を刊行するには、8年もの歳月を要した。6年の間に9回も平壌の美術界を訪れ、大変なこともあったが、平壌で出会った祖国の同胞と温かな人間愛を分かち合う楽しみもあった。アメリカ合衆国のワシントン.D.Cから平壌までは、飛行機で片道約20時間もかかるし、多くの事が不確実で保証されることのない瞬間の連続だった。しかし平壌で良い作品に出会い、貴重な資料を手に入れることができた時は、すべての不確実と不安が払拭された。私は火に飛び込むヒトリガのように、朝鮮画を世界に知らしめたいというただ一念で、半ば狂乱したように作業に没頭した。

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