〈それぞれの四季〉天才と凡人/黄純実
2019年11月03日 09:26 コラム自分の能力に限界を感じて落ち込んでしまうという経験は誰にでもあると思う。
個人的に、私は周りより何かを吸収する速度が遅い方なのもあって、何かの才能がある人を凄く羨んでいた。
パリには音楽の天才が集まっている。天才たちと比べて自分を誇れない時期があった。そんな時、一人のアーティストと出会った。
正直、彼は天才と言われるようなタイプではなく、どうしたら自分が飛び抜けられるかを考え、行動し、なんとか絞り出しているような印象だった。しかし彼の授業を受けてみると、教え方が圧倒的に上手く、とにかく分かりやすかった。
彼自身に興味を持ったので、色んな話を聞きたいととにかく付け回した。
彼がいつも言うことは、「僕は人より才能が無かったし、出来ないことが多くて随分悔しい思いをした。ただ、出来なかったからこそ、なぜ出来ないのか、分からないのかが分かる。それが人にきちんと教えられる事につながっている。天才より凡人の方が圧倒的に多いのだから、分かりやすく紐解いて人に伝える必要がある」だった。
この言葉のおかげで、不必要な焦りや不安が無くなった。出来ないことと向き合い、一つ一つ解決していくことが自身の武器になると気づいた。まだまだ経験、知識が足りず色んな壁にぶつかるが、その度に壁を打開する方法をゆっくり考えて見つけることができれば、きっといつか役に立つと考えられるようになった。
これからも紆余曲折はあると思うが、この心持ちを忘れずに挑んで行きたい。
(パリ在住、音楽院生)