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〈それぞれの四季〉人との繋がり/黄純実

2019年10月03日 09:24 コラム

音楽を学ぶためにパリに来たわけだが、先生に教えられるのは音楽ではない。

よく言われるのは「どうせ日本で練習ばっかりしてたんでしょ? 頼むからもう練習するな。黙々と練習なんてしても伸びないから呑みに行って死ぬ気で遊べ。人との繋がりが第一。練習は二の次」である。

高校生の頃の私は、他人と時間を共有するなんて人生の無駄、何の生産性もない、と本気で思っていた。他人との関係を拒否していた時期もあり、本当に心が荒んだ。

もし過去の自分に会えるなら平手打ちをする。未熟な自分がどれだけ努力して自身を磨いても限界がある。私が何かの天才なら話は別だが、全くの凡人が心を荒ませたところで何もならない。何よりも、私は人の温もりを忘れてしまうと幸せだと思えなくなってしまう。

人として成長する術はどれだけ遠回りになろうと、他人と接することしかないのだ。

人生経験の多い方たちには甘いと言われるかもしれないが、技術や功績、地位よりも人との繋がりを大切にしていける人生を送りたい。その為に最低限の実力だけあれば良い。

全ての分野においてある程度の基礎は必要だが、そのあとは「人間として何を持っているか」だと思う。

要領良く、効率的に物事を運ぶ人たちも世の中には必要だけど、視覚で捉えることのできない、数字で表せないことを感じとる能力もまた、人間として本当に大事なことだとパリは私に学ばせてくれている。

(パリ、音楽院生)

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