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〈本の紹介〉国民のしつけ方/斎藤貴男著

2017年07月26日 13:27 文化・歴史 コラム

政権の圧力、メディアの自主規制

2016年に発表された世界各国の「報道自由度」ランキングで日本は72位(2016年、17年)。日本のジャーナリズムの現状に危機感を抱く著者は、その原因を政権による報道への圧力とマスメディアの過剰な自主規制によるものと指摘。それはまるで国民をしつけるために巧妙に仕組まれているかのようだ。ネットで常態化する記事に見せかけた広告や、保身に走るメディアの問題も浮き彫りにし、知る権利を守るために今我々にできることは何かを探る。

政権による巧妙な報道への圧力の、顕著な事例は「慰安婦問題」における凄まじい朝日新聞バッシングだった。週刊誌には「売国む「国賊」「反日」などといった、戦前もかくやの罵詈雑言が溢れ、これらが新聞や通勤電車の中吊り広告によって増幅された。退職した元記者の勤務する大学にも脅迫電話やメール、ファクス等が殺到し、ネット上では家族に対する人格攻撃まで飛び交った。

朝日を攻撃する勢力は、この際、慰安婦問題そのものを存在しなかったものとしたい意志をむき出しにしていく。その勢力の頂点にいるのが安倍首相。14年10月6日の衆院予算委員会で、安倍首相はこう言った。

「朝日新聞の慰安婦問題に関する誤報により、多くの人が苦しみ、そして、悲しみ、そして怒りを覚えたわけであります。そして、日韓関係に大きな影響、そして打撃を与えたとも言える、このように思います。そして、国際社会における日本の、日本人の名誉を著しく傷つけたことは事実であります。こうした誤報を認めたのでありますから、この記事によって傷つけられた日本の名誉を回復するためにも今後努力していただきたい」

本来であれば、日本軍性奴隷制の犯罪性について、安倍首相が、真摯な謝罪と国家責任を認めるべきなのに、それどころか、被害者と加害者の立場を逆さにした詭弁を弄しているだ。そして、朝日新聞もその後、完全に膝を屈し「報道機関として、あってはならない事態を招いたことは痛恨の極み」「朝日新聞社を根底からつくりかえる覚悟」などという宣言を掲載した。まさしく、著者がいう「権力にしつけられてしまう。かれらにとって都合のよいように操られていく」光景が出現したのだ。

斎藤さんは「『マイナンバー』が日本を壊す」「消費税のカラクリ」「機会不平等」「『東京電力』研究排除の系譜」「東京を弄んだ男『空疎な小皇帝』石原慎太郎」など現在の政治に根本からノーを突きつける著書を持つ。「多くの人々が、怒らなければならない時に、きちんと怒れない。私たち自身の生活や尊厳が踏みにじられようとしている場合でも、何となく笑って済ませてしまう」(まえがき)ことのない、権力に抗う「番犬ジャーナリスト」の一人だからだ。(朴日粉)

 

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