【寄稿】日常に垣間見たリアリティ、初めての朝鮮訪問で/野中大樹
2017年06月05日 09:00 共和国機内の窓から眼下をみわたすと、赤茶けた丘陵が連なっていた。家屋が並んだ集落が、あっちにも、こっちにも。まもなく着陸という時、川縁を歩く人間の姿を見つけた。人だ、人がいる!
空港を出ると、右を見ても左を見ても、人がいる。自転車に乗っている。2人乗りも、3人乗りもいる、が、ちょっとフラついている。鍬で畑を耕している。4~5人で車座に座って談笑している。煙草を吸いながら遠くの景色を眺めている。ピンク色のカーディガンに黒いスカートを穿いた若い女性が、ややうつむき加減で道路脇に立っている。友達を待っているのか、それとも恋人か。
平壌市街地に入ると人の様子も街の風景も一変し、艶やかになった。娘と手をつないで歩く母親。公園の滑り台に幼い子を乗せようとしている父親。スーツ姿で「歩きスマホ」ならぬ「チャリこぎスマホ」している会社員、その前に人がいる、危ない、 前に人がいるよっ! と窓から声を出したくなったが、双方、阿吽の呼吸でかわしてみせた。その先ではタクシーが停車し、中から人が降りている。
街中では路面電車やバスが悠然と走っている。どこまで乗っても運賃は同額らしい。けれど、中は人でいっぱいだ。ぎゅうぎゅうで少し苦しそう。隣の人の顔が近すぎる。正面の人とさしむかいになっている人は、ちょっと気まずい。だから本を読んだり、スマホをいじったりしている。