〈本の紹介〉ANGRY YOUNG VOTERS(アングリーヤングボーターズ)李泳采著
2016年11月22日 16:18 文化・歴史 コラムなぜ、南の若者たちは立ち上がるのか
著者の李泳采は1971年に「韓国」で生まれ、98年に来日して恵泉女学園大学の教員となった、「韓」日、朝・日関係を専門とする気鋭の学者でありジャーナリストである。すでに「アイリスでわかる朝鮮半島の危機」をはじめ十冊ほどの著書を上梓している。現今の日本では、朝鮮問題研究家やジャーナリストらの、研究不足と偏見にみちた「北朝鮮像」が恣意的に流布されているが、本書の著者はそうした風潮とは無縁である。また「韓国」の朴槿恵政権を批判し真の民主化を促進するという立ち位置から、日本の歴史修正主義がもたらすいびつな「韓」日関係(筆者はこれを主従関係と見ている)を正常なものにするために論陣を張り、日本の右傾化潮流に抗拒している。本書はこのような著者が、祖国統一を視野に入れつつ「韓国」の進むべき道と「韓」日関係正常化の方途を示した論評集である。全四章から成る内容はつぎのとおりである。
第一章「民主化」後を生きる者として。
第二章 韓国の歴史的な4・13総選挙と若者たち。
第三章 韓国の市民社会からみた日本の政治
第四章 韓国の「反日」は、なぜ今も続いているのか?
第一章は講演の原稿をまとめたもので、セウォル号沈没事件で露呈された朴槿恵政権の無能ぶりと、国家責任の追及、そして非正規雇用増加による格差社会の危機的状況をあぶり出している。それに続いて、87年の6月抗争以後の時代を生きる著者の民主化運動の立場が明かされている。
第二章では、今年4月の総選挙を、若者らの怒りの投票、首都圏中産保守層の反与党投票、伝統的な地域政治の亀裂、有権者の戦略的な選択等々の結果であると総括している。注目すべきは野党の勝利は60年の4月革命、87年の6月抗争につぐ「有権者」の政治革命であったと意義づけて次回の大統領選挙での野党の勝利が不可能でないことを示唆している。
第三章はハンギョレ新聞に連載された論評である。ここで著者は、「韓」日関係と朝・日関係の原則を、安倍政権の対「韓」・対朝鮮政策を厳しく論難しつつ、明らかにしている。この問題については、筆者は、日本政府が植民地支配という国家的犯罪を法的公文書で謝罪して国家賠償をおこない、ひいては朝鮮との国交を実現する以外に解決の方法はないと考える。
第四章は「韓」日国交正常化から50年を経た時点での「韓国」社会における「反日」という意識の形成過程をたどり植民地支配の歴史的・政治的清算をしようとしない日本と、清算の完全実施を求める「韓国」との違いを語り、「反日」が収まらない「韓国」の歴史認識を明らかにしている。
本書を精読して感得しえたのは、歴史修正主義が克服されない限り、朝鮮と国交正常化を成し遂げない限り、そして統一朝鮮の実現に寄与しない限り、日本は朝鮮民族と真の友好親善関係を成立させることはできないというモチーフである。(卞宰洙 文芸評論家)