「朝鮮八景歌」とそれを取り巻く人たち(上)
2014年02月03日 11:26 文化大衆の人気を集めた新民謡
「朝鮮八景歌」という新民謡がある。新民謡とは普通の民謡とは異なり、作詞・作曲家がはっきりとしているもので、とくに1930年代に数多く作られた。結婚式で定番の「ノドル江岸」も新民謡である。「朝鮮八景歌」の歌詞は次の通りで、それぞれに「名勝のわが江山、自慢なり」というリフレインがある。
金剛山一万二千の峰はすべて奇岩かな 漢拏山は空高く聳え俗世を離れん
石窟庵の朝景色は見なければ悔いが残り 海雲台の夕月は見るほどに心和む
キャンプの赴戦高原は夏の楽園 平壌は錦繍江山青春の王国なり
白頭山天地のほとりに仙女の夢が舞い 鴨緑江の小川には筏が趣をなす
歌える人も多いはずだが、残念ながら現在ではこのままの歌詞で歌われることはない。容易に想像されるように、その8つの景勝地は南北にまたがるからである。この歌が世に出たのは1936年で、軽快な曲調と楽天的な歌詞、そしてなによりも「黄昏の湖水」と評された鮮干一扇の歌唱によって大衆の人気を博した。
解放前はいうにおよばず、その後も人々に親しまれた「朝鮮八景歌」はどのように生まれたのだろうか? そして、鮮干一扇とはどのような歌手であり、どのような人生を送ったのか? 「朝鮮音楽名人伝」(尹伊桑音楽研究所、1998)、「民族受難期の歌謡を振り返り(増補版)」(平壌出版社、2003)を参考に、あまり知られることのない植民地歌謡史の一端を垣間見よう。