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〈そこが知りたいQ&A〉特定秘密保護法は憲法改正の先取り

2013年11月29日 11:48 主要ニュース

さる11月26日、特定秘密保護法案が衆議院本会議で可決され、現在、参議院において審議されている。この法律は紛れもなく国民主権主義や平和主義、基本的人権の尊重を謳った日本国憲法に反する法律であり、より具体的には戦争のための人権抑圧立法だ。とりわけこの法律は、一般国民はもちろん、日本における少数者の人権を極度に蹂躙するおそれのある悪法だと言える。特定秘密保護法の内容と問題点について、朝鮮大学校の李泰一准教授に話を聞いた。

Q. 特定秘密保護法とは?

. 日本政府は、国家の安全保障に関する情報のうち、何を秘密にし、秘密にした情報を誰が扱い、そしてその秘密を漏らした者をどのように処罰するのかを定めることのより、秘密情報の漏洩を防止し、国及び国民の安全を確保するための法律であると述べています。

しかしながら、この説明には多少無理があります。そもそも国民の安全を保護するためには、情報を秘密にするのではなく公開すべきであり、国家が何を考え、どのような政策を実行しようとしているのかについて市民のチェックが入るべきなのです。そのような意味で、この法律は、むしろ国民の安全を極度に脅かすものであり、国家が国民に秘密で、戦争のような重大な権利侵害をもたらす悪事を、スムーズに遂行できるようにする戦争態勢への序曲であると言えるでしょう。

Q. 特定秘密って何? 誰が決めるの?

. 法律では、特定秘密に指定できる情報の要件について第一に、当該行政機関の所掌事務に関わる別表(下記参照)に掲げる事項に関する情報であること、第二に、公になっていないこと、第三に、その漏洩が日本国の安全に著しい支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であることという三要件を規定しています。政府は、この三要件によって特定秘密の範囲が限定されるとしていますが、それは事実に反します。別表を見てみると、「その他重要な情報」という規定が散りばめられており、本質的には、行政機関の長がどんなものでも特定秘密にできる仕組みになっています。行政機関の長が特定秘密について判断し、その判断についてのチェック機能はありません。

まさに、「何が秘密かは秘密」であるという法律であり、現に特定秘密になると推定されている情報が計41万2931件にのぼるとされています。

Q. なぜ日本に必要なの?

. 実は、特定秘密保護法が必要だという立法事実自体、存在しません。すでに、国家公務員法において、公務員の情報漏洩に関する刑罰法規が存在しているばかりでなく、自衛隊法、刑事特別法、MDA秘密保護法などにおいて軍事や防衛情報の漏洩に関する厳しい刑罰法規が存在しています。現に防衛大臣が、2007年から2011年までの5年間だけで約5万5000件もの情報を「防衛秘密」に指定し、隠蔽したと言われています。特定秘密保護法の制定は、このような隠蔽工作を政府が合法的に行いうる制度構築であり、日本の現状において何ら必要性のない法律であると言えるでしょう。

Q. 安倍政権はなぜ成立を急ぐの?

. 特定秘密保護法制定の背景には、米国の圧力が存在します。米国はかねてより日本との新たな軍事同盟強化を求めており、その結果がまさに日本版NSCといわれている国家安全保障会議の設置と特定秘密保護法の制定です。米国からすれば、日本と軍事行動を共に行うためには、国家安全保障会議の設置だけでは足りず、軍事機密の漏洩などに対処する法律が必要であり、まさにそのような要求に答えたものが特定秘密保護法なのです。この法律の制定は、集団的自衛権の行使容認を目指す安倍政権にとっても都合のいいものであったということは言うまでもありません。安倍政権が時期を逃すことなく、今国会で、法律制定を急ぐにはこのような十分な理由があると言えるでしょう。

Q. 刑罰の内容は?

. 1985年に提出された国家秘密法(廃案)と比べれば、罰則に「死刑または無期懲役」もなければ、「たまたま知った秘密を話したという単純漏洩罪」も存在しない。しかしながら、このような刑罰規定は、国民や市民の反発を回避するためのものであり、実際には、法定刑の上限を懲役5年又は10年まで引き上げ、公務員の情報漏洩について重罰化が図られています。また、故意の漏洩行為ばかりでなく、過失の漏洩行為、未遂行為や共謀行為、独立教唆、扇動、特定取得行為及び共謀、教唆、扇動まで処罰しようとしています。ここには、秘密情報の漏洩という結果は、故意であろうと過失であろうと未遂であろうと、国益に与える影響という点において何ら差異がないので、厳しく取り締まるべきであるという姿勢があります。このような姿勢は、特定秘密保護法が弾圧法規として機能する危険を促すものであると言えるでしょう。

Q. マスコミが特に狙われる?

. 特定秘密保護法の目的が、安全保障を根拠に国家が秘密裏に国民の安全を侵害する政策を遂行しうるための制度づくりであるので、マスコミがその対象になるのは言うまでもないでしょう。情報を調査することも、公表することも許されない法律なので、マスコミは自己規制に走り、社会が相当程度萎縮してしまいます。情報をもらってそれを公表しただけでも漏洩罪になり刑罰を受けるのです。それも、どの情報が特定秘密に指定されているのかが秘密なのですから、本質的に表現の自由の極度な侵害であることは明白です。マスコミの本来の機能は失われていくでしょう。日本はまさに、国民が知るべき情報は知らされず、言論統制を通じ軍国主義を蔓延させた過去の戦時体制へと逆戻りしつつあります。

Q. 市民への影響は?

. 多くの市民たちは、この法律が国家公務員を対象にしているので、自分たちにはなんら関係がないと思っています。それは誤解です。この法律が運用されるやいないや、その猛威はとどまることがないでしょう。学者や研究者、市民運動家や報道関係者等、真に国民の安全を願う人々が情報を調査し公表することが、特定秘密の漏洩になり得るのです。

過去の反省から、日本では戦後今日まで、あからさまに秘密保全法制の制定が論じられてきませんでした。1985年に国会に提出された国家秘密法案も市民やマスコミの力で廃案になりました。自由と民主主義、そして平和は、常に国家権力との対抗によって、市民自らの手で獲得してきた権利です。

Q. 在日同胞社会に対する影響は?

. 常に社会の少数者から人権は侵害されていきます。特定秘密保護法の制定は、在日朝鮮人社会に大いなる萎縮効果をもたらすでしょう。世の中が国家の見解を気にするのですから、今日のような情勢のもとではなお一層、朝鮮人として生きにくい状況が到来することは間違いないと言えます。とくに、国家安全保障会議とのセットとして特定秘密保護法が存在するということは看過することができません。国家安全保障会議には6つの局がありますが、その一つは「中国・北朝鮮」となっています。まさに朝鮮がターゲットになっているのです。国家が特定秘密を公表しない以上、いつ、総聯組織や報道機関、朝鮮学校などが捜査の対象になるかわからないというのが現状です。

しかし、ここでわれわれが萎縮してはいけません。それは、自由や民主主義を侵害しようとする側の思うつぼだからです。今ほど、朝鮮人として生きる意味が価値を持つ時代はないかもしれません。

【別表】(第三条、第五条第九条関係)

一 防衛に関する事項

  • イ 自衛隊の運用又はこれに関する見積もり若しくは計画若しくは研究
  • ロ 防衛に関し収集した電波情報、画像情報その他の重要な情報
  • ハ ロに掲げる情報の収集整理又はその能力
  • ニ 防衛力の整備に関する見積もり若しくは計画又は研究
  • ホ 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物(船舶を含む)の種類又は数量
  • ヘ 防衛の用に供する通信網の構成又は通信の方法
  • ト  防衛の用に供する暗号
  • チ 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物又はこれらの物の研究開発段階のものの仕様、性能又は使用方法
  • リ 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物又はこれらの物の研究開発段階のものの製作、検査、修理又は試験の方法
  • ヌ 防衛の用に供する施設の設計、性能又は内部の用途 

二 外交に関する事項

  • イ 安全保障に関する外国の政府又は国際機関との交渉又は協力の方針又は内容
  • ロ 安全保障のために我が国が実施する貨物の輸出若しくは輸入の禁止その他の措置又はその方針
  • ハ  安全保障に関し収集した条約その他の国際約束に基づき保護することが必要な情報その他の重要な情報
  • ニ ハに掲げる情報の収集整理又はその能力
  • ホ 外務省本省と在外公館との間の通信その他の外交の用に供する暗号 

三 特定有害活動の防止に関する事項

  • イ 特定有害活動による被害の発生若しくは拡大の防止(特定有害活動の防止)のための措置又はこれに関する計画若しくは研究
  • ロ 特定有害活動の防止に関し収集した外国の政府又は国際機関からの情報その他の重要な情報
  • ハ ロに掲げる情報の収集整理又はその能力
  • ニ 特定有害活動の防止の用に供する暗号 

四 テロリズムの防止に関する事項

  • イ テロリズムによる被害の発生若しくは拡大の防止(テロリズムの防止)のための措置又はこれに関する計画若しくは研究
  • ロ テロリズムの防止に関し収集した外国の政府又は国際機関からの情報その他の重要な情報
  • ハ ロに掲げる情報の収集整理又はその能力
  • ニ テロリズムの防止の用に供する暗号

(朝鮮新報)

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