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橋下徹市長への公開質問状/吉見義明・中央大学教授

2013年06月20日 15:51 主要ニュース

中央大学 吉見義明

2013年6月4日

あなたは、2012年8月24日の記者会見(以下「本件会見」といいます)において、日本軍「慰安婦」問題に言及し、「吉見さんという方ですか、あの方が強制連行という事実というところまでは認められないという発言があったりとか……」と述べ(以下「本件発言」といいます)、私が強制連行という事実はなかったと発言していると断定されました。

しかしこれは、1991年から20年以上この問題を解明してきた私の研究の根幹を否定し、私の社会的評価を著しく損ない、私の名誉を毀損するものであるため、10月23日に、この発言の撤回と謝罪を求める質問状を差し上げました。

これに対して、あなたは、10月29日付の私宛の書簡(以下「本件書簡」といいます)において、西岡力東京基督教大学教授の雑誌「WiLL」2012年10月号での発言に基づいて述べたものだという理由で、発言の撤回も謝罪もしておられません。

これは、到底容認できない対応なので、あらためて本件発言の撤回と謝罪を要求するとともに、本年5月13日の貴殿の「慰安婦」問題に関する発言とそれに引き続く外国人特派員協会での貴殿及び日本維新の会の国会議員の発言は本件発言に関連して重要と考えますので、これらも含めて貴殿の本件発言に関連して下記のとおり質問致しますので、2013年7月5日までにご回答下さい。 

第1. 日本軍「慰安婦」制度の実態について

1. 在日韓国人の宋神道さんが提訴した裁判では、東京地裁は「原告は、その『武昌の』慰安所の営業許可直前、泣いて抗ったが、軍医による性病検査を受けさせられ、営業許可後は、意に沿わないまま従軍慰安婦として日本軍人の性行為の相手をさせられた。原告がいやになって逃げようとすると、そのたびに慰安所の帳場担当者らに捕まえられて連れ戻され、殴る蹴るなどの制裁を加えられたため、原告は否応なく軍人の相手を続けざるを得なかった」「原告らは、連日のように朝から晩まで軍人の相手をさせられた。殊に、日曜日はやってくる軍人の数が多く、また、通過部隊があるときは、とりわけ多数の軍人が訪れ、原告が相手をした人数が数十人に達することもあった」と事実認定をしています(以下「本件事実」といいます。1999年10月1日、東京地裁判決)。また、この事件に関する東京高裁判決(2000年11月30日)も判決文で本件事実認定を踏襲していますが、あなたはこれらの事実認定あるいはその他の裁判で被害者が自由を奪われ性行為を強要された旨の認定があることを知っていますか。

2. 極東国際軍事裁判(いわゆる東京裁判)の判決は、「桂林を占領している間、日本軍は強姦と掠奪のようなあらゆる種類の残虐行為を犯した。工場を設立するという口実で、かれらは女工を募集した。こうして募集された婦女子に、日本軍隊のために醜業を強制した」と認定していますが、あなたはこのことを知っていますか。

3. 上記1及び2の事例にみられるように、日本軍の慰安所(以下「軍慰安所」といいます)に入れられた女性たちは、そこから逃げ出すことも、性行為を拒否することもできず、1日に数人から数十人を相手にしなければならなかったという事実をあなたは知っていますか。

4. 上記1の事実が認められる日本軍「慰安婦」制度は、居住の自由、外出の自由、廃業の自由(自由廃業)、拒否する自由がない性奴隷制であり、女性たちは慰安所で軍人の性の相手を強制されたのではありませんか。

5. 日本軍は、当時、軍慰安所を軍の施設として設置し、徴募・渡航の方法・条件の指示、軍慰安所規定の制定、監督・統制、衛生管理、軍紀風紀維持などに関して、法規の改正や指示や指導等により主導し、内務省・総督府など関係する行政機関も深く関与していたのではありませんか。

6. 上記5のように日本軍と日本政府が軍慰安所の設置、管理、女性たちの徴募の全般に深く関わっていたことについて、国際社会からは、日本軍と日本政府が日本軍「慰安婦」制度を設置し運用していたとして、日本政府の責任が問われているのではありませんか。

7. 軍は、当時、帝国外に移送する目的で人を略取・誘拐または人身売買した者には犯罪が成立するとされていたから、業者が誘拐・人身売買により軍慰安所に女性を連れて来たことを認識した場合は直ちに業者を処罰し、女性を解放して故郷に送り帰すべきところ、そのような行動を取らなかったのではありませんか。

8. 上記1乃至7のことから、日本政府と日本軍は、当時、軍が設置・管理等した軍慰安所には略取・誘拐・人身売買により連れてこられた女性が、拒否する自由もなく性行為を強制されていたことを認容していたといえるのではないですか。

9. 上記1乃至8から、日本軍「慰安婦」制度は、当時においても、「慰安婦」とされた女性に対する反人道的な重大な人権侵害であり、被害者が望む内容の被害回復がされていない以上、日本国は、現在においても、被害者の人権を回復すべき責任を負っているのではありませんか。

第2. 日本軍「慰安婦」制度に対する国際的評価について 

1. 国連の自由権規約委員会その他の国際機関は、軍慰安所で女性たちの自由を奪い、性行為を強要したことが人道に反する行為であり、女性に対する暴力の究極的な形態であって、日本軍「慰安婦」制度は性奴隷制度だと指摘していますが、あなたはこのことを知っていますか。

2. あなたは、国際機関による日本軍「慰安婦」制度に対する上記評価を認めますか。

3. 拷問等禁止委員会は、本年5月、日本国に対し、「慰安婦」とされていた被害者の救済のために、性奴隷制の犯罪について法的責任をみとめること、公的人物などが「慰安婦」とされた被害者の被った事実を否定する言動を繰り返していることによって再び精神的外傷を受けていることについて反駁すること、関連資料を公開し事実を徹底的に調査すること、被害者の救済を受ける権利を確認しそれに基づいて十全で効果的な救済と賠償を行うこと、この問題について公衆を教育し、あらゆる歴史教科書にこれらの事件を記載すること等を求めていますが、あなたは日本国がこれらの要求を受け入れるべきであると考えますか。

仮に受け入れるべきでないと考えるのであれば、その理由もお答え下さい。

第3. 当時の国際法に照らした評価について

日本は、当時「醜業を行わしむる為の婦女売買取締に関する国際協定」(1904年)・「醜業を行わしむる為の婦女売買禁止に関する国際条約」(1910年)・「婦人及児童の売買禁止に関する国際条約」(1921年)に加入しており、①満21歳未満の女性を売春目的で勧誘・誘因・拐去した者は女性の承諾があった場合でも処罰すること、②満21歳以上の女性を売春目的で詐欺、暴行、脅迫、権力乱用その他一切の強制手段で勧誘・誘因・拐去した者は処罰すること、という義務を負っていました 。

また、強制労働に関する条約(ILO29号条約)にも加入しており、女性に対するいかなる強制労働をも禁止すべき条約上の義務を負っていました。当時、朝鮮・台湾からは満21歳未満の女性たちが数多く帝国外の慰安所に入れられています。

そこで、あなたは、日本政府がこれらの国際条約上の義務に反したことを認めますか。

第4. 日本軍「慰安婦」制度と公娼制度との関係について 

1. あなたは、慰安婦にされた女性は公娼であって、官憲が直接暴行・脅迫を用いて連行したのでなければ、慰安所に女性たちを入れたことについて政府に責任はないと述べておられます。その発言に関連して、以下の質問にお答え下さい。

(1)当時、公娼制度においても自由廃業の規定があり、意に反する性行為の強制は違法とされていましたが、あなたはこのことを知っていますか。

(2)公娼制度の実態をみると、女性は居住の自由がなく、外出の自由も1933年までは認められず、自由廃業の規定があったにもかかわらず、前借金に縛られて廃業することができませんでしたが、あなたはこのことを知っていますか。

(3)(2)の実態は、当時においても違法といえるのではありませんか。

2 軍慰安所において拒否することができずに性行為を強制されていたことは、当時の規範に照らしても許されないのではありませんか。

第5. 軍・官憲による暴行・脅迫を用いた連行

1. あなたは、本件書簡において、インドネシアのスマランで軍・官憲が暴行・脅迫を用いた連行(略取)によりオランダ人女性を慰安所に入れたことを認めておられますが、これは軍・官憲による強制連行ではありませんか。

2. オランダ政府の報告書によれば、上記のスマラン事件以外に、ブロラでの軍による略取(監禁・レイプ)、1944年1月のマゲラン事件、同年4月のスマラン・フロレス事件、1943年8月のシトボンド事件など8件の軍・官憲による略取(未遂を含む)が挙げられていますが、あなたはこれを知っていますか。

3. また、白人女性ではなく、インドネシア人女性の軍・官憲による略取については、アンボン島で、海軍が「慰安婦狩り」を行ったという元主計将校、坂部康正さんの証言、サパロワ島で民政警察が強制的に連行したという禾晴道さんの証言、モア島で地元の女性を強制的に慰安所に入れたという、極東国際軍事裁判の証拠記録(オハラ・セイダイ陸軍中尉の証言)などがありますが、あなたはこのような証言があることを知っていますか。

4. 日本の裁判所は、中国の山西省と海南島で、軍が暴行・脅迫を用いて女性たちを連行した事実に関して、たとえば、「日本軍構成員によって、駐屯地近くに住む中国人女性(少女も含む)を強制的に拉致・連行して強姦し、監禁状態にして連日強姦を繰り返す行為、いわゆる慰安婦状態にする事件があった」とを認定しています(中国人第一次裁判東京高裁判決・2004年12月15日)。これ以外にも、中国人第二次裁判東京地裁判決・2002年3月29日、同東京高裁判決・2005年3月18日、山西省裁判東京地裁判決・2003年4月24日、同東京高裁判決・2005年3月31日、海南島裁判東京高裁判決・2009年3月26日などで、軍による暴行・脅迫を用いた連行の事実を認定していますが、あなたは日本の裁判所がこのような事実認定をしていることを知っていますか。

5. 上記2乃至4に照らせば、日本軍が暴行・脅迫を用いて女性たちを連行した多数の事実が認められているのではありませんか。

第6. 連行の犯罪性とその該当性について

1. 朝鮮・台湾でも施行されていた刑法第226条は、帝国外に移送する目的で人を略取・誘拐または人身売買した者は2年以上の有期懲役に処す、と規定しています。

このように、当時、略取(暴行・脅迫を用いて連行すること)だけではなく、誘拐(詐欺または甘言により連行すること)・人身売買(前借金を与えて経済的強制により人身を拘束すること)も犯罪だとされていたことを知っていますか。

2. 朝鮮においては、軍・官憲が選定した業者が誘拐・人身売買により女性たちを国外に連行したことは、たとえばアメリカ戦時情報局心理作戦班「日本人捕虜尋問報告」第49号(1944年10月1日)など、様々な資料や軍人の証言により立証されていますが、あなたはこのことを知っていますか。

3. 警察庁は、北朝鮮による拉致の定義について、「警察において、拉致容疑事案としているものは、そのいずれも、北朝鮮の国家的意思が推認される形で、本人の意思に反して北朝鮮に連れて行かれたものと考えている」としたうえで、飲食店主が誘拐(甘言)により連行した日本人被害者についても拉致と認定していますが、あなたはこのことを知っていますか。

4. 上記1乃至3によれば、略取の場合のみならず、誘拐、人身売買により連行された場合も犯罪であり「拉致」に該当するといえるのではないですか。

第7. 安倍内閣の閣議決定について

1. あなたは、本件会見において、2007年に安倍内閣が「軍や官憲によるいわゆる強制連行の事実を直接示すような記述も見当たらなかった」という閣議決定を出したということを強調していますが、この閣議決定では同時に「政府の基本的立場として官房長官談話を継承している」と述べているのではありませんか(内閣衆質166第110号、2007年3月16日)。

2. この閣議決定は、単に「軍や官憲による」強制連行の事実を「直接」示す「記述」が見当たらないと述べているにすぎず、それ以外の証拠(たとえば、強制連行を体験した被害者の証言など)については言及していないのではありませんか。

また、スマラン事件関係資料など当時法務省が所蔵していた証拠が入っていないとすれば、調査は不徹底だったのではありませんか。

3. この閣議決定は、軍・官憲が暴行・脅迫を用いて女性を連行した「事実」の有無については言及していないのではありませんか。

4. この閣議決定は、「政府において、平成三年十二月から平成五年八月まで関係資料の調査及び関係者からの聞き取りを行い、これらを全体として判断した結果、同月四日の内閣官房長官談話…のとおりとなったものである」としたうえで、「同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には」見当たらなかったと述べているにすぎず、平成5年8月4日の調査結果の発表後に発見された資料については言及していないのではありませんか。

5. この閣議決定を根拠に、当時、軍が暴行・脅迫を用いて女性を連行した「事実」を否定することはできないのではありませんか。

第8. 「朝まで生テレビ」での発言について

私は、1997年1月31日の「朝まで生テレビ」において、日本軍・日本政府の責任が問われる問題として、「慰安所での強制」、「未成年者(21歳未満)の使役」、前借金による拘束、就業詐欺、拉致・誘拐、権力乱用(半強制)、官憲による奴隷狩りのような連行という5種類の徴募時における強制があったと主張していますが、あなたは私が上記番組でこのような主張をしていたことを知っていましたか。

第9 私の見解に対する理解について

1. 私は、これまで一貫して、慰安所において強制があったと主張し、その違法性を基本的な問題として指摘してきたのですが、あなたはこの事実を知っていますか。

2. あなたは本件会見の時までに、私の著作のうち、何を読みましたか。また、現在までに、何を読みましたか。

3. あなたは、本件書簡において、8月24日の発言は、東京基督教大学の西岡力教授が雑誌「WiLL」2012年10月号で述べていることに基づいている、と言われています。

そこでの西岡教授の発言は、「朝鮮半島で権力による慰安婦の強制連行」は証明されていないと吉見が言ったというもので、「朝鮮半島で」「権力による」という限定が付いています(ただし、西岡教授の要約も正確ではありません。「強制連行」ではなく、「奴隷狩りのような暴力的連行」というべきです)。しかし、あなたは、本件会見で、「朝鮮半島で」「権力による」との限定なしに、「吉見さんという方ですか、あの方が強制連行という事実というところまでは認められないという発言があったりとか……」と述べ、私が強制連行という事実はなかったと発言していると断定しています。

これは、私の基本的見解を確認することなく、私の見解を歪曲して述べたことになるのではないですか。

4. 本年5月27日の日本外国特派員協会でのあなたの会見の場で、日本維新の会の桜内文城衆議院議員は、私の「従軍慰安婦」(岩波新書)を英訳した Comfort Women: Sexual Slavery in the Japanese Military During World War II, Columbia University Press, 2000 について、「ヒストリーブックスということで吉見さんという方の本を(司会者が)引用されておりましたけれども、これはすでに捏造ということが色んな証拠によって明らかとされています」と述べておられましたが、これも私の名誉を著しく毀損する発言といわざるをえません。あなたは当日桜内議員のこの発言を制止しませんでしたが、この発言を肯定するのですか。

以上

(※巻末におかれた注釈及び添付の別紙は省略)

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