〈高校無償化〉運動の現場から/母校で学ぶ後輩たちのために
2013年02月01日 10:26 主要ニュース「高校無償化」制度が適用されないまま卒業生を3年連続で世に送り出そうとしている唯一の学校が朝鮮高級学校。加えて、各地で民族学校に対する補助金が凍結、停止される動きが見られるなか、保護者、教育関係者はもちろん当の生徒たちに与える心の「傷」が懸念される。
実際、この3年間、生徒たちは街頭宣伝やビラ配りを行いながら排外的な日本社会の現実を肌身で感じてきた。しかし、その心は萎えることなく、更なる団結を求め、未来の朝鮮学校と同胞社会について考えをめぐらせていた。
卒業生の思い
「無償化」制度が適用されないまま母校を巣立った第1期目の卒業生たちは、いまだにこの問題が解決されていないことに胸を痛め、母校の後輩たちを心配している。
昨年の衆院選挙の行方を注視していたという金尚浩さん(20、大学生)は、選挙の結果、自民党が再び政権についたとき「恐れていたことが起きた」と感じた。
「『無償化』は『審査』が延々と続いてる状態なのに、いままでの苦労が水の泡になるのではと心底不安だった。案の定、自民党政権は朝鮮学校を制度から外すためだけの改正案を出してきた」
金尚浩さんは、朝高3年間ラグビー部に属しながら大阪府の代表として全国高等学校ラグビー選手権大会でベスト4に輝いた年のメンバーだ。この年の最上級生のラグビー部生徒たちは同校に視察にやってきた橋下知事(2010年3月当時、現大阪市長)と会っている。
橋下知事は、朝高生たちに「本当にがんばってね。決勝戦までいったら試合を見に行くから」と笑顔で話していたそうだ。しかしその日の晩、テレビ番組のインタビューで、「学校サイドとは、最後は大人どうしの話をして...」「北朝鮮は基本的に暴力団と一緒だと考えているから...」「そんな不法国家と関係のある朝鮮学校に公金は支出できない」と吐き捨てるように言った。
ラグビー部のキャプテンを務めた金寛泰さん(20、大学生)は、「過ぎたこと」といってもやはり当時を思い出すと、信じられず、悔しい気持ちになると振り返る。
そのような体験をした寛泰さんたちの年代は、後輩への思いも人一倍強い。卒業して2年経つ今でも、後輩たちが「全国大会」に出場するとなると毎年欠かさず同年代のメンバーと一緒に、「花園」に足を運んでいる。今年の大会では、同ラグビー部のユニフォームを着て熱烈に応援した。また2011年度には、いまだ「無償化」をめぐり権利獲得闘争の真っ只中にある後輩たちのために、各々が通う大学キャンパスを中心に署名活動も行った。
「自分たちの代でこの問題を終わらせたかった。それが出来ず、いま母校で学ぶ後輩たちが苦しい思いをしているのには本当にすまない気持ちでいっぱいだ。しかし、現役の朝高生たちにはいろんな可能性があるのに、これに失望して、あきらめてほしくない。彼らがあきらめたらその後輩たちも希望を持てなくなってしまうからだ。現状を打開していくために卒業生の私たちも固く団結してがんばりたい」(寛泰さん)
自分に出来ること
近年、大阪朝高はラグビーやボクシングなどの分野で毎年連続で大阪府を代表して大会に出場するなど、スポーツ強豪校として同胞をはじめ日本市民にも広く認識されるようになった。
大阪朝高ボクシング部の李健太さん(高2)は昨年度、朝高史上初となるライト級3冠(選抜、インターハイ、国体)の快挙を成し遂げた。同年代の日本高校の選手やボクシング関係者らも李さんの優勝を喜んでくれた。
「特に、『国体』で大阪府の代表として出場した時が気合が入っていた」(李さん)。
李さんはその理由について、現在「無償化」実現のために日々大切な時間を街頭宣伝やビラ配りに費やしている同級生たちの思いを胸に刻んで試合に臨んだからだと語った。
「自分が練習している時、ほとんどの学友はみんな街頭宣伝に出かけていて申し訳なかった。全国大会で府代表として必ずいい成績を残し、大阪府知事や市長に見てもらいたかった」
「母校の名前がもっと日本社会に知れ渡るように」と語る李さんは、今年6冠を目指す。
3月に卒業を控えている高級部3年生の生徒たちは、思えば入学と同時に先輩と共に、ビラ配りや街頭宣伝に精力的に参加してきた。同年代の高校生たちと比べても大変な3年間を送った。
しかしそのような経験を通して任晋男さん(高3)は、「今の日本社会の現状を良く知ることが出来た」と語る。
「街に出てみると、いま『無償化』から朝鮮学校だけが排除されようとしている現状自体知らない人が大多数であったし、朝鮮学校すら知らない人が多かった。『よく分からないけど、とりあえず署名してあげるよ』の言葉には感謝したが、その反面あまりにも無関心な人が多いことに気づき、本当に悔しくてむなしかった。同時に私たちがこのような仕打ちを受けるのは一部の悪意を持った政治家のせいだと強く感じた」(任さん)
彼は、『無償化』闘争が司法の場へと舞台を移した今、朝高生たちがもっとこの問題に関わり、その熱意を社会全体に広げていくのが大事と考えている。
「日本社会で息苦しさを感じている同胞が、日本国籍を取得する道を選ぼうとする傾向も現実としてある。そのような現状を少しでも変えるためにも、自分は卒業後も同級生たちが集まる機会をいっぱい設けて、朝鮮人として力強く生きられるような環境づくりに力を注いでいきたい。自分たちにとって残された朝高生活は、これから団結していくための大切な準備期間だと思っている」
(李炯辰)