過去の歴史に目を背けるな
2012年08月31日 15:44 歴史 主要ニュース「未解決の戦後補償-問われる日本の過去と未来」
田中宏・中山武敏・有光健 他著
日本は敗戦後67年を迎えたが、日本が起こした前世紀の戦争の後始末がいまだ続いている。そればかりか、日本の侵略戦争の犠牲となったアジア各国からの「恨」の声は年を追うごとに大きくなっている。それは「日本人が過去の歴史とどう向き合うのかという課題の深刻さ」(田中宏・一橋大名誉教授)が噴出したものであろう。
日本がドイツのように過去を真摯に反省して、被害者や周辺国への補償をしっかりやっていれば、日本の過去を問う声がここまで高まることはなかったはずである。
過去の戦争の被害者、加害者、関係者ともに、当時を知る人々は次々に他界し、各国の生存する戦争被害体験者は、すでに2割を切って、1割に近づきつつあるという。平均年齢も80代後半に達したが、心身に抱える戦争の被害と傷は、いまだに癒えてはいない。
1990年代初めから大きなうねりになって日本に解決を迫ってきた、戦後補償を求める内外の戦争被害者らの運動が、約20年を経て今どうなっているのか。本書はそうした課題などについて概観しながら、解決への道について考察している。なお、本書で扱う「戦後補償」とは、主に国と国との賠償や戦後処理で取り残された個人の戦争被害に対する救済・補償問題である。
とりわけ植民地支配を受け、無理やり戦争に動員され、犠牲を強いられた朝鮮半島の人々の日本政府への怒りと不信感の大きさに本書は紙数を割いている。95年の「村山談話」、98年の小渕首相と金大中大統領の「日韓共同宣言」、2010年の「併合100年」の「菅談話」などは、いずれも「痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明」するというものであったが、抽象的であいまいな文言にとどまり、現実の外交姿勢は「65年の日韓請求権協定によって、完全かつ最終的に決着済み」で貫かれ、被害者側の要求は一切拒否され続けてきた。
また、日本政府と企業が解決を求められてきた戦後補償の課題の中でも、戦時性暴力被害として「慰安婦」問題があげられる。しかし、日本政府はこの問題に真正面から向き合わず、いまや「河野談話」すら否定するありさまである。野田首相、橋下大阪府知事、石原東京都知事の「証拠がない」などの妄言は、国際社会においても日本の政治家の低劣さを際立たせている。本書はこの問題だけでなく、戦後補償の課題について、詳細に列挙しながら、その早期解決を訴えている。
ワシントン・ポスト紙(07年3月24日付)は、「『慰安婦』問題を否認する当時の安倍首相を強く非難して社説を発表したことがあった。そこではこう指摘されている。「日本が朝鮮の女性を拉致し、彼女らを性奴隷として酷使したということは、歴史的にも記録されている明白な史実である。朝鮮、中国、フィリピン、またはほかの国々から拉致された20万人近いアジアの女性が性の奴隷にされ、しかもこれら女性たちの拉致に日本の軍隊が関与したということは、歴史が証明している事実である。…日本の政府が今に至るまで被害者たちに対する責任と賠償を回避してきたことも褒めたことではないが、すでに発表されている『河野談話』のようなものさえも、これを否定しようとしているのは、少なくとも名だたる民主国家を自称している国の指導者としては恥ずべきことだと言わざるをえない」
本書の結びには「いつまでも日本だけが、過去の歴史に目を背けて、世界の国々と敵対する歴史観、いわゆる皇国史観に基づき、過去の戦争や植民地支配を正当化する等許されるはずもない」と述べられている。日本の未来を真に憂いている人々の真摯な願いが込められている一冊である。
(朴日粉)
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なお、本書の目次は次の通りである。戦後補償・残された課題―戦後六七年、戦後補償・解決への道を考える/「慰安婦」問題の現況を考える―必要な追加調査と謝罪、個人補償/朝鮮人強制連行・強制労働問題‐その課題と展望―政治的解決、立法化で賠償を/中国人強制連行・強制労働の問題と課題―過去清算に取り組みアジアの信頼回復を/加害(重慶爆撃)と被害(東京空襲)の両裁判の意味―国際法違反の戦略爆撃、無差別殺戮を問う/「日本の戦犯」にされた朝鮮人たち―求められる朝鮮人BC級戦犯の人権救済/被害者らの要求を実現する政策を求めて―旧日本軍毒ガス兵器被害の解決を求める/シベリア特措法と今後の課題―残された外国籍などへの措置/同情ではなく権利を、差別ではなく平等を―旧植民地出身者元軍人・軍属支援の「在日の戦後補償を求める会」が求めたもの/供託と協定で奪われた未払い金―明らかになった朝鮮人未払い金の実態/疑問多い日韓条約での解決済み―日韓会談の文書公開と情報開示。創史社刊。1,800円+税。