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〈本の紹介〉「死と滅亡のパンセ」/辺見庸著

2012年06月09日 16:19 文化・歴史

「メディアが戦争を作る」

この1冊を読めば、この日本の異常さ、異様さの本質に気づかされる。ジャーナリストでもあり、作家・詩人でもある著者をうんざりさせる現在の日本の「日本語、そして言語状況」。そして、「詩や散文の世界だけでなく、マスメディア全体」に対して怒りが向けられている。膨張して歩き出した「国難」、「震災詩」というあやしげな言葉…。作家は直感的に「ぼくにはなにか生理的に耐えがたい。戦前、戦中の翼賛詩、戦詩みたいなものを彷彿とさせる」と全身で感じとっているのだ。

毎日新聞社、03-3212-3257

そして、「この先、愛国統一戦線のようなものに吸引されていくんじゃないかな。この国の気流はますますよくなくなっているよ。どうも息がしにくい。きみとおなじで、おれも心身のバランスがわるくなっている」と暗い予感を吐き出す。

かつての戦争中、「戦意昂揚と精神醇化」のお先棒をかついだ新聞社が、性懲りもなく、著者に3.11に詩の創作と朗読を依頼してきたという。著者は「何だろう、この発想の同質性は」と大いなる疑問を呈している。この国に蔓延する戦争詩と戦後詩、ひいては震災詩のいわば「不連続的連続」について指摘。そして、今のニッポンの状況についてスケッチしながら、「大阪で起きているバッククラッシュもテレビ、新聞を中心とするマスメディア由来のものだ」として、「チンピラ・アジテーターにすぎなかったかれをヒーローにしたてあげた」「ファシズムはメディアがつくる」「メディアは戦争が作る(あるいは戦争はメディアが作る)」と喝破してやまない。

日本で形成されつつある反動と非道のその暗い闇。辺見氏は「単独者」として、身体と精神を丸ごと投げ打って闘いを挑み続けている。この社会は「ヘラヘラ笑いながら新型ファシズムの道を歩んでいる」と強く批判する。

(朴日粉)

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