〈歴史×状況×言葉 1〉石川啄木/「時代閉塞の現状」
2010年02月01日 00:00 歴史時代閉塞の現状を奈何にせむ秋に入りてことに斯く思ふかな
地図の上朝鮮国にくろぐろと墨をぬりつゝ秋風を聴く
石川啄木(1886~1912、歌人、詩人、小説家、評論家)は、1910年「韓国併合条約」締結直後に、「九月の夜の不平」と題した和歌三十四首を読んだ。冒頭にあげた二首はその時代認識を最もよく示している。朝鮮植民地化に対する啄木の異議は、明治末期の「時代閉塞」と呼んだ社会思想状況への批判とともにある。
その炯眼は、日本の朝鮮植民地支配と、日露戦争後急速に反動化していく国内状況とが不可分であることを見抜いていた。すなわち国家の強権が幸徳秋水ら社会主義者らを大弾圧した「大逆事件」を頂点とし、天皇制絶対主義が飛躍的に強化されていく時代、朝鮮の植民地化は、朝鮮のみならず日本の将来にとっても不幸であることを啄木は認識していた。そして彼の言葉は、100年後の日本社会を覆う閉塞感と朝鮮問題との関係までをも射抜いている。