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写真家・観客・被写体が一体となる“疎通の空間”/安世鴻写真展「重重―消せない痕跡Ⅱ」

2017年10月07日 16:52 歴史

安世鴻写真展「重重―消せない痕跡 アジアの日本軍性奴隷被害者女性たち」

写真家・安世鴻さん(46)による写真展「重重ー消せない痕跡II~アジアの日本軍性奴隷被害女性たち」(9月30日~10月9日)が東京・神楽坂のセッションハウス2階ガーデンで開催されている。

今回の写真展では、16、17年に撮影したフィリピン、インドネシア、東ティモールの30人の被害者の写真が新たに展示され、証言映像も公開された。

痛みへの共感

16、17年に撮影したフィリピン、インドネシア、東ティモールの30人の被害者の写真が新たに展示された。

安さんは、96年に南の被害者らが共同生活を送るソウル近郊の「ナヌムの家」を訪ねて以降、約20年に渡り、南朝鮮、東ティモール、インドネシア、東アジアなどの被害者を撮り続けてきた。12年には、「重重プロジェクト」を立ち上げ、写真展、講演会、証言記録作業や被害者支援に取り組む。「重重」には、小さな力を一つの大きな力に変えようという思いが込められている。

今回、「生」「被」「抱」「解」「共」の5つのセクションに分けられた展示場。

「生」では、被害者である以前に一人の女性である被害者の人生を、「被」では、戦後70年以上が経つ中でも残り続ける痛みと怒りを、「抱」では、生還した後の差別や偏見によって受けた苦しみを、「解」では、会話や歌、踊りや祈祷を通して痛みを解消しようとする被害者の姿を収めた。「共」では、家族の支えを受け生活する被害者の姿を通して、支援の裾野を広げ、共に被害者の痛みを解消していきたいという思いを表現した。

写真家・安世鴻さん

安さんがこれまでに撮影した被害者は129人。展示場には、東南アジアならではの色彩豊かな服をまとった女性たちの写真が並ぶ。しかし、カラフルな写真に写る女性たちの顔には怒りや苦悩が深い皺となって刻まれている。安さんは、「色彩と表情のコントラストを通して、被害者の痛みをより深く感じてほしい。カラー写真を用いたのは、女性たちが受けた被害が過去のものではなく、現在進行形のものだということを伝えたかったから」と語る。

歴史の真実を記録する安さんの試みはこれまで、幾度となく妨害に会った。12年に予定した東京と大阪のニコンサロンでの写真展はニコンによって一方的に中止された。同年にニコンを相手取り東京地裁に提訴、地裁は15年、ニコンに対し110万円の損害賠償を命じた。

歴史修正主義が蔓延する政治状況の下、日本軍性奴隷制被害者を扱う安さんの「表現の自由」を認めた判決は、当時、大きな反響を呼んだ。それから2年。日本軍性奴隷制問題を取り巻く日本社会の認識には、新たな歪みが生じている。

「一昨年の日韓『合意』によって、問題は解決したとみなす人が増えたように思う。以前の展示会では、普遍的な関心が高く、多くの人が観に来たが、今回は来場者が少ない。『合意』によって被害者の痛みが解消されることはない。加害の歴史に向き合うことを回避したいという気持ちが人々の中にあるのではないだろうか」

今回の写真展に際しても、右翼団体による妨害活動が行われた。しかし安さんは「身近な妨害よりも警戒しなくてはならないのは、政治家・権力者が扇動する歴史歪曲の動きだ」と警鐘を鳴らす。

広がる支援の輪

安さんが写真展を通して目指すもの。それは「写真家・観客・被写体」の3者が繋がり生まれる「疎通の空間」だ。

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