“レイシズムを中断し、民族教育を保障せよ”/研究者有志が声明
2016年05月10日 16:08 民族教育「朝鮮学校への地方公共団体の補助金に対する政府の不当な介入に抗議する研究者有志」は、3.29文科省通知と関連して、安倍晋三首相と馳浩文科相宛の抗議声明への賛同者を国内外に募っている。声明の全文は以下のとおり。
朝鮮学校への地方公共団体の補助金に対する政府の不当な介入に抗議する研究者有志の声明
2016年3月29日、文部科学大臣は「朝鮮学校に係る補助金に関する留意点について」という通知を28都道府県知事宛に送付しました。わたしたち研究者は、これを政府による民族教育に対する不当な介入であると考え、ここに抗議します。
同通知は、地方公共団体に朝鮮学校に係る補助金の支給停止を直接求める文面にはなっていないものの、既に各地で動揺が広がっています。それは、報道などで公表されている経緯からして明らかであるように、この通知が、自由民主党および日本政府による朝鮮民主主義人民共和国に対する一連の「制裁」に関する議論と措置の一環として出されたためです。補助金の支給自体はこれまでどおり各地方公共団体の自治的な判断に委ねられているとはいえ、「北朝鮮への圧力」といえば何をやっても許されるかのような風潮が作り出されてきたなかで、政府がこのような通知を出す目的と効果は明白です。
在日朝鮮人による自主的な民族教育に対して、日本政府はその権利を保障するどころか、歴史的に一貫して冷淡で、ときに直接的な弾圧を加えてきました。日本政府は、戦前には「民族的色彩」が濃厚と判断した教育施設を弾圧し、戦後の脱植民地化の趨勢のなかでようやく各地にできあがった民族教育施設に対しても1948~50年にかけて多くを強制的に閉鎖し、さらに1965年の文部事務次官通達などを契機に閉鎖を含む統制を加えようとしました。
各地の地方公共団体は、こうした国の政策にもかかわらず、外国にルーツをもちながら地域住民として生きる子らの民族教育に対する地域社会の理解を基礎とし、地方自治の精神にのっとって補助金制度を設けてきました。ところが、近年ふたたび日朝関係の悪化を背景に、日本政府は朝鮮学校を高等学校等就学支援金制度(いわゆる高校無償化制度)から排除し、このことが一部の地方公共団体による補助金の打ち切りや減額を誘発しました。そしてついに今回、地方公共団体の補助金交付に直接介入してきたのです。
このような昨今の日本政府による朝鮮学校への政策は、各種の国際人権法や日本国憲法で定められた平等権、学習権を政治的事由にもとづいて不当に侵害するにとどまらず、それ自体が人種差別撤廃条約で禁止しているレイシズム(人種・民族差別)の一形態に他なりません。実際、2014年に国連の人種差別撤廃委員会が日本政府に対して、朝鮮学校生徒への高等学校等就学支援金の支給と、地方公共団体補助金の「再開あるいは維持」を要請しています。日本政府は、この要請を「留意点」として地方公共団体に通知すべきであるにもかかわらず、むしろ反対に人種差別撤廃委員会が懸念を示している政策を維持、拡大しようとしています。
今回の通知は、排外主義を助長することになるだけでなく、それ自体が結果的に「ヘイトスピーチ」と同様の機能をもってしまうことに、わたしたちは懸念を表明せざるを得ません。2009年には京都の朝鮮学校に対して排外主義団体が激しい示威活動をおこないましたが、この事件に対して裁判所は、当該活動によって朝鮮学校の「社会的評価」が低下させられ「民族教育を行う社会環境」が損なわれたことを重く見て高額賠償を求めました。この観点からすれば、今回の通知は、長年にわたって地域社会で培われてきた朝鮮学校の社会的評価と社会環境に負の影響を及ぼそうとする目的と効果において、排外主義団体が学校前でおこなった言動に比肩するものです。
以上の点から、わたしたちは今回の文科大臣通知に強く抗議するとともに、その撤回を要求します。また、文教政策において朝鮮学校に対するレイシズム(人種・民族差別)をただちに中断し、国際基準に照らして民族教育を保障するよう求めます。
呼びかけ人
北村嘉恵(北海道大学)、富永智津子(元宮城学院女子大学教授)、川端浩平(福島大学)、渋谷敦司(茨城大学)、福井譲(国際医療福祉大学)、土谷岳史(高崎経済大学)、永田瞬(高崎経済大学)、福岡安則(埼玉大学名誉教授)、三宅晶子(千葉大学)、樋浦郷子(歴史民俗博物館)、鵜飼哲(一橋大学)、佐野通夫(こども教育宝仙大学)、米田俊彦(お茶の水女子大学)、中野敏男(東京外国語大学名誉教授)、坂元ひろ子(一橋大学名誉教授)、外村大(東京大学)、阿部浩己(神奈川大学)、久保新一(関東学院大学名誉教授)、林博史(関東学院大学)、吉澤文寿(新潟国際情報大学)、北明美(福井県立大学)、三脇康生(仁愛大学)、吉村臨兵(福井県立大学)、新宮晋(福井県立大学)、柴田努(岐阜大学)、山本崇記(静岡県立大学)、山本かほり(愛知県立大学)、森原康仁(三重大学)、河かおる*(滋賀県立大学)、板垣竜太*(同志社大学)、駒込武*(京都大学)、水野直樹(京都大学名誉教授)、藤永壯*(大阪産業大学)、宇野田尚哉(大阪大学)、伊地知紀子(大阪市立大学)、谷富夫(甲南大学)、長志珠絵(神戸大学)髙谷幸(岡山大学)、崔真碩(広島大学)、櫻庭総(山口大学)、魁生由美子(愛媛大学)、小林知子(福岡教育大学)、出水薫(九州大学)
(*印は世話人)
(朝鮮新報)