金剛山歌劇団滋賀公演「いにしえの風ふたたび」、共に生きる平和な社会を
2012年11月05日 14:14 文化800人の観客、拍手とどよめきに揺れる
10年ぶりとなる「金剛山歌劇団滋賀公演2012」(同実行委員会主催)の華やかな幕が2日夕、滋賀・大津市のびわ湖ホールで上がり、会場いっぱいに詰めかけた約800人の観客を魅了した。
公演会場は美しい景観を誇る琵琶湖畔に立つ国内有数の白亜の芸術専用劇場。開演のすでに一時間半前の午後5時頃には、ロビーに大勢の列ができて、この日を待ちわびていた人々の滋賀公演への熱気の高さを映し出していた。美容師仲間の藤田光子さん(61)、瀬尾京子さん(61)、弓島よし江さん(61) 、門操さん(62)は、口々に「朝鮮の民族楽器や民謡の大ファン。10数年前からステージを観ている。力強くてやさしくて、艶があって、耳に心地よくて…。これからは毎年、ここでやってほしい」とリクエストしていた。4人は、在日の友人からチケットを購入したという。また、京都から来た金福順さん(62)は中央芸術団の時代からの熱烈なファン。「物心ついた頃から観ている。40回観たのか50回観たのか分からない。とにかく何度でも観たい」と笑顔で語った。
6時半、いよいよ開幕。今公演のテーマは朝鮮通信使や朝鮮三国と縁が深い地域性を映し出す「いにしえの風ふたたび」。公演は器楽演奏、舞踊と歌謡を織り交ぜたアンサンブルの2部構成だ。第1部が混声重唱「虹の彼方」で幕が上がると、場内にはウオーというどよめきが広がった。女声独唱「アリラン」や女声4重唱「口笛」、混声重唱「コマウォ」に会場を揺るがすような大きな拍手が送られる。会場を魅了したのは、チャンセナブ独奏「喜びのアリラン」とアンコール曲「オーバー・ザ・レインボー」。そして、打楽器演奏「Fusion Music of Corea」の激しい朝鮮のリズムの乱舞に会場は手拍子や歓声が飛び交い、最高潮の盛り上がりを見せた。
第2部は朝鮮の代表的舞踊「扇の舞」や近年各地で巡演し好評を博す独舞「菩提薩埵」、群舞「パクピョン舞」、双舞「双剣対舞」などが次々に披露されると、「すごい、ステキね」というささやきがさざなみのように客席に広がっていった。終演の「農楽舞」では会場の通路から「愛 虹の架け橋」と書かれたのぼりを先頭に農楽隊が入ってくるとひときわ大きな拍手に包まれた。続いて、舞台と客席全員が「琵琶湖周航のうた」を大きな声で合唱し、客席と舞台は一つに融け合った。
公演を観た沢田享子・滋賀県議は公演実行委共同代表でもある。日頃から滋賀朝鮮初級学校の授業参観に足を運ぶなど、朝鮮学校の支援に尽力してきた。「優美な朝鮮の芸術を朝鮮学校の子どもたちと一緒に観覧できてとてもうれしかった」と述べながら、「すばらしい舞台の裏では、日頃の厳しいレッスンの積み重ねがある。そんなたゆまぬ努力があってこそ、本物の芸術が花開くことだろう」として「今日の舞台で子どもたちはとても大切なものを学んだはず。これからも子どもたちが学校でしっかり勉強して、朝鮮語も日本語も自由に使える人になって、日本と朝鮮の橋渡し役になってほしい。すばらしい文化をお互いに称えあって、いきいきした社会をみんなで築いていこう」とエールを送っていた。
また、近江八幡市から25人の仲間とやってきた金澤満さんは「朝鮮語を学ぶ会」の会長。朝鮮語の横断幕を会場に掲げて熱烈な歓迎ぶりを示した。そして、「言葉がわからなくても一緒に観た10歳の女の子が涙を流して感動していた」と芸術性を称えた。
また、地元・大津市内から来た浅野寿夫さん(75)も「公演が市民の支援に支えられて、大成功裏に終えたことをまず喜びたい」と前置きしながら、「これまで歌劇団公演を4~5回観たが、観るたびにアリランやチャンゴのリズムに魅了されていく。両国には懸案問題があるが、こういうときだからこそ、文化交流が大事。いがみあってはいけない。仲良くして、平和な東アジアを築いていこう」と述べた。
朝・日で38人の実行委結成
10年ぶりの公演を成功裏に終えた陰には、38人からなる朝・日の実行委メンバーの献身的な働きぶりがあった。とりわけ、滋賀初級の教育会理事として多忙な日々を送る李武賢さんが事務局長としてその中心にいた。李さんは「女性同盟に引っ張られながらこの半年間、みなで懸命に活動した。10年の空白は重かったし、普段の行事の動員数は最大400人ほど。800人の席を埋められるかと最初とても心配した」。だが、そうした杞憂はすぐ払拭した。今年4月に事務局長を引き受けると決断すると、実行委メンバーで緻密な役割分担を決め、チケット販売、広告募集、協賛、後援団体の確定、予算案の確定など矢継ぎ早に決めていった。そして、月1~二回必ず、実行委を開いて、各部署が互いに活動の進み具合を報告しあうなど連絡を密にしあった。そうするなかで、チケット販売も順調に進み、中には一人で70枚を捌く人も出たりした。成果がどんどん出ると、メンバーたちに次第に自信が芽生えていったという。李さんはこの半年を振り返りながら、「この間、青商会も結成され、朝青と共に若い力を発揮して協力してくれた。3年前に滋賀初級創立50周年を祝って以来、同胞たちも集まる場がなかったが、10年ぶりの歌劇団公演という一つの大きな目標に向かって、みなで力を合わせて走りぬき、見事に成し遂げることができていまはうれしい」と破顔一笑した。
また、女性同盟滋賀の文化部長の権日善さん(49)の喜びもひとしおである。滋賀公演を待望した一人でもある。結婚するまで歌劇団に在籍し、子育てが一段落した後、地元に舞踊研究所「ナレ」を作り、後進を指導、多くの舞踊家を育ててきた。その一人がこの日、ソロを踊って喝采を受けた朴順任さん (28) だ。ことしの歌劇団の本公演の「春香伝」のヒロインを演じている。「滋賀初中級(当時)、京都朝高時代に『ナレ』に通っていた。とても素質が豊かで、努力家。練習に多くの汗を流していた」と振り返りながら、しかし、「彼女が入団した年からこの10年、皮肉にも滋賀公演が開催されなかった」と嘆く。だからこそ、母校のある地元で「晴れの舞台に立たせてあげたかった」と語った。
母校で後輩を指導
多くの人々の夢と情熱によって支えられたびわ湖ホールの美しい舞台。この日の本番を前に、朝9時に母校を訪ねた朴順任さんと器楽奏者の金秀一さん。約1時間、舞踊サークル(10人)とチャンダンサークル(18人)、幼稚班(8人)を熱心に指導した。子どもたちの真剣なまなざしからは憧れの先輩に、実技指導を受ける千載一遇の機会に心を躍らせている様子がうかがえた。
朴さんは「滋賀の学校で初めて舞踊を学んだ懐かしい日々が蘇った。あの日があったからこそ、いまの私がある。私を育み、見守ってくれた同胞たちがいたからこそ、今日まで頑張ることができた。これから少しでも恩返しをして、後輩たちがすくすく育っていけるように微力を尽くしたい」と笑顔で語った。
(朴日粉)