短編小説「春の農村にやってきた青年」24/千世鳳
2021年12月06日 10:54
「まあ、いいから、靴下をくれ!」 「本当に、じいさんの言うことを聞いてると、とても正気だとは思えやしないよ! バルバリってどこのバルバリさ」 妻は靴下を持ってきたが、夫がどうかしてるのではないか確かめ…
短編小説「春の農村にやってきた青年」21/千世鳳
2021年12月02日 07:09
キルスは、胸に腕組みした指をぱたぱたはじきながら考えた。彼の澄んだ瞳には涙さえ浮かんでいた。 しばらくしてから、おやじがものも言わずにもっそりと戻ってきた。先ほどとは違って、思いなしか、多少、顔色もや…
短編小説「春の農村にやってきた青年」20/千世鳳
2021年12月01日 07:55
「収入ですって? 収入が多いか少ないかってことなんか、そう気にしていませんよ。この組合の去年の分配実績を見ると、相当の分配をしてましたが、機械工場に劣るようなことはないでしょうよ」 「でも、技術者は、…
短編小説「春の農村にやってきた青年」19/千世鳳
2021年12月01日 07:54
おやじは、今度はモーターの方に目をやった。それを見て管理委員長はまた大声で笑った。 「なにはともあれ、キルス君、もっと研究してみることだ。そして、きみの言っていた水田じか撒機も作ってみなさい。今年は、…
短編小説「春の農村にやってきた青年」18/千世鳳
2021年11月30日 06:17
……こりゃあ、いったいどうしたわけだろう! チベギの話では、精米所のモーターくらい大きなものでなければ風はおこせないと言っていたのに、こんなちっぽけなものが風をおこしてる? こりゃあ、まったく驚いたわ…
短編小説「春の農村にやってきた青年」17/千世鳳
2021年11月28日 08:57
その夜、二人は、隣の精米所から電線を引っぱってきた。そして、モーターに電線をつなぎ、ふいごと炉の間に羽根車のついたパイプを埋めた。彼女はとても気がきくので、キルスがいちいち言わないうちに、さっさと仕事…
短編小説「春の農村にやってきた青年」16/千世鳳
2021年11月28日 08:56
「ふーん、相当なもんだ」 「なにが相当なの? トラクターの運転でもしたんなら別だけど……」 「調節手だっていいじゃないか。ぼくなんか、まだ、それさえやってみたことがないんだ」 「あんまり、からかわない…
短編小説「春の農村にやってきた青年」15/千世鳳
2021年11月28日 08:55
「ええ……」 彼女はまだ胸がドキドキしていたが、笑顔でこう答えた。二人は仕事場に入っていった。 「何を作るの?」 「鍛冶屋の仕事を機械化しなきゃならないんでね」 「どうやって機械化するの?」
短編小説「春の農村にやってきた青年」14/千世鳳
2021年11月24日 06:59
おやじは、また、たいへんな心配ごとがもうひとつ増えた。チベギの話を聞いてから、鍛冶屋を乗っ取られることを心配していたのだが、今度は自分の娘をとられはしないか、という心配までが加わったのである。 その夜…
短編小説「春の農村にやってきた青年」13/千世鳳
2021年11月23日 09:15
鼻の頭にぷつぷつ汗をかいたヨンエが、キルスの手からホミの柄をひったくった。 「そんな手荒にしたら、腕をくじくじゃないか」 「だって、そんなにぐずぐず削ってないで、もっと手に力を入れて早く削らなきゃ駄目…
短編小説「春の農村にやってきた青年」12/千世鳳
2021年11月17日 06:22
こうやって鍛冶屋では、たくさんの道具を作った。組合員はたびたびやってきて道具類を見ては、りっぱなできばえだとほめていった。組合の幹部たちもちょくちょく見にきた。 ある日の午後のことであった。ここに、長…
短編小説「春の農村にやってきた青年」11/千世鳳
2021年11月17日 06:22
「ちょっと、その図面をこっちへください。これは荷車の平面図で、これが車の心棒の受けですよ。この心棒から後ろの板をみんな切り取ってしまうんです。すると、荷車の後ろ半分がなくなってしまうでしょう? 次にそ…
短編小説「春の農村にやってきた青年」10/千世鳳
2021年11月14日 09:31
「なあ兄貴、しっかりふんどしを締めてかからにゃ、うっかりすると鍛冶屋を乗っ取りにかかるかもしれんですぜ、あの野郎が……」 「な、なんだと? 鍛冶屋を乗っ取るって?」 「うん、今日見たとこじゃあ、どうも…
短編小説「春の農村にやってきた青年」9/千世鳳
2021年11月10日 06:58
「ふーん、この人は、今の党の政策もよく知らんとみえるな」 「いったい、どういう意味なんですか? それは」 「きみ、冷床苗をするってことはだ、党の政策を実際にやるってことだよ。それなのに、冷床苗をほっぽ…
短編小説「春の農村にやってきた青年」8/千世鳳
2021年11月03日 08:39
「おれがかい? おれにゃ、とてもそんな器用なまねはできねえさ」 これを聞いたチベギは、声を出して笑った。 「そうじゃないんですよ。おじさん! 手っ取りばやいってのはね、なんのことはない、はじめっからモ…
短編小説「春の農村にやってきた青年」7/千世鳳
2021年10月31日 09:10
チベギは、今までこらえていたものが爆発して、おのずと声が大きくなり額には血がのぼってきた。 「そんなら、おまえさんがじかに当たってみなよ。管理委員会に虎がいるわけじゃあるめえし……そんだけの腕を持って…
短編小説「春の農村にやってきた青年」6/千世鳳
2021年10月29日 07:25
「そうでさあ、そんな高いものをこんなちっぽけな鍛冶屋に据えつけて風をおこすなんて……」 「はっはは、組合がどうなろうと、てまえさえ楽ならいいんだろう。そして、技術者でございますということにもなるしな……
短編小説「春の農村にやってきた青年」5/千世鳳
2021年10月28日 06:20
彼は、キルスがこの先、自分を大いに困らせやしないかとそんなことまで心配になってきた。 次の日から彼は、なおさらいかめしい顔つきをしてキルスにこごとを言った。最初からしっかりと手綱をひきしめておくつもり…