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〈歴史×状況×言葉 12〉中島敦(下)/自己を揺るがした朝鮮体験

中島敦の「巡査の居る風景―一九二三年の一つのスケッチ―」は、日本の支配権力の下で巡査として働く主人公趙教英の民族的葛藤を、同化と差別、親日と反日が入り混じる植民地下ソウルの複雑な現実とともに描いた。弱…

〈歴史×状況×言葉 9〉金子文子/「飽くまで自由の念に燃えよ」

昨年、児童虐待の相談件数が過去最高を更新したという。件数は大きく減少する様子もなく、最近も親により児童が死に至るような凄惨な事件が報じられた。根本的な解決に向けた対策や展望が容易にはつかめない、ゆがみ…

〈歴史×状況×言葉 8〉芥川龍之介(下)/「小児と大差ない日本男児たち」

朝鮮植民地支配100年に際し今夏発表された菅首相の談話について、日本の主要紙は軒並みこれを「評価」する社説を載せ、南の李明博大統領も「歓迎」の意を示した。「朝鮮王室儀軌」など略奪文化財を「お渡し」する…

〈歴史×状況×言葉 7〉芥川龍之介(中)/「いわんや殺戮を喜ぶなどは」

大正期後半からの社会運動の隆盛とプロレタリア文学の台頭のなか、「ぼんやりとした不安」という言葉を残し自死した芥川の文学は、激動する現実に対する知性の「敗北」として長らく評価されてきた。しかし近年の研究…

〈歴史×状況×言葉 6〉芥川龍之介(上)/野蛮な「桃太郎」と日本軍国主義と

日本で生まれ育った者ならば誰でも知っているであろう桃太郎物語。最も有名なこの「昔話」、今日定着しているストーリーとして成立し普及されたのは、そう遠い昔ではなく、実は近代以降のことである。物語成立事情を…

〈歴史×状況×言葉 5〉有島武郎/「行け。勇んで。小さき者よ」

有島武郎(1878~1923)に出会ったのは、高校1年生の頃、教科書に収録されていた「小さき者へ」(1918)だった。病で母親を亡くした3人の幼い子どもたちに向けて書かれた作品である。厳粛な文体が、高…

〈歴史×状況×言葉 4〉高浜虚子/憐れまれる存在ではない

「韓国併合条約」の翌1911年、高浜虚子(俳人、小説家 1874~1959)は二度にわたり朝鮮に遊んだ見聞をもとに長編小説「朝鮮」(「大阪毎日新聞」「東京日日新聞」の両紙に連載)を書いた。俳人として、…

〈歴史×状況×言葉 3〉夏目漱石(下)/「植民地」の存在 忘却へ追う

「己みたような腰弁は殺されちゃ厭だが、伊藤さんみたような人は、哈爾賓へ行って殺される方がいいんだよ」「伊藤さんは殺されたから、歴史的に偉い人になれるのさ」-夏目漱石の小説「門」の宗助は、伊藤博文殺害の…