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短編小説「春の農村にやってきた青年」19/千世鳳

おやじは、今度はモーターの方に目をやった。それを見て管理委員長はまた大声で笑った。 「なにはともあれ、キルス君、もっと研究してみることだ。そして、きみの言っていた水田じか撒機も作ってみなさい。今年は、…

短編小説「春の農村にやってきた青年」18/千世鳳

……こりゃあ、いったいどうしたわけだろう! チベギの話では、精米所のモーターくらい大きなものでなければ風はおこせないと言っていたのに、こんなちっぽけなものが風をおこしてる? こりゃあ、まったく驚いたわ…

短編小説「春の農村にやってきた青年」17/千世鳳

その夜、二人は、隣の精米所から電線を引っぱってきた。そして、モーターに電線をつなぎ、ふいごと炉の間に羽根車のついたパイプを埋めた。彼女はとても気がきくので、キルスがいちいち言わないうちに、さっさと仕事…

短編小説「春の農村にやってきた青年」16/千世鳳

「ふーん、相当なもんだ」 「なにが相当なの? トラクターの運転でもしたんなら別だけど……」 「調節手だっていいじゃないか。ぼくなんか、まだ、それさえやってみたことがないんだ」 「あんまり、からかわない…

短編小説「春の農村にやってきた青年」15/千世鳳

「ええ……」 彼女はまだ胸がドキドキしていたが、笑顔でこう答えた。二人は仕事場に入っていった。 「何を作るの?」 「鍛冶屋の仕事を機械化しなきゃならないんでね」 「どうやって機械化するの?」

短編小説「春の農村にやってきた青年」14/千世鳳

おやじは、また、たいへんな心配ごとがもうひとつ増えた。チベギの話を聞いてから、鍛冶屋を乗っ取られることを心配していたのだが、今度は自分の娘をとられはしないか、という心配までが加わったのである。 その夜…

短編小説「春の農村にやってきた青年」13/千世鳳

鼻の頭にぷつぷつ汗をかいたヨンエが、キルスの手からホミの柄をひったくった。 「そんな手荒にしたら、腕をくじくじゃないか」 「だって、そんなにぐずぐず削ってないで、もっと手に力を入れて早く削らなきゃ駄目…

短編小説「春の農村にやってきた青年」12/千世鳳

こうやって鍛冶屋では、たくさんの道具を作った。組合員はたびたびやってきて道具類を見ては、りっぱなできばえだとほめていった。組合の幹部たちもちょくちょく見にきた。 ある日の午後のことであった。ここに、長…

短編小説「春の農村にやってきた青年」11/千世鳳

「ちょっと、その図面をこっちへください。これは荷車の平面図で、これが車の心棒の受けですよ。この心棒から後ろの板をみんな切り取ってしまうんです。すると、荷車の後ろ半分がなくなってしまうでしょう? 次にそ…

短編小説「春の農村にやってきた青年」10/千世鳳

「なあ兄貴、しっかりふんどしを締めてかからにゃ、うっかりすると鍛冶屋を乗っ取りにかかるかもしれんですぜ、あの野郎が……」 「な、なんだと? 鍛冶屋を乗っ取るって?」 「うん、今日見たとこじゃあ、どうも…