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短編小説「百日紅」 6/クォン・ジョンウン

どうして私たちだけが都市に住めないんだろう?なんのためにこんな人里離れた深い山奥で保線係の仕事をしなければならないというのだろう? 夫は一年中鉄路のかたわらで生活し、自分はからっぽの家に一人だけとり残…

短編小説「百日紅」 5/クォン・ジョンウン

2人は昨年結ばれた新婚夫婦であった。 ヒョン・ウヒョクは30を越したばかりの、目鼻だちのととのったきりっとした好青年で、クムニョの方も咲き染めた花を思わせるような若くすがすがしい女性であった。 彼女は…

短編小説「百日紅」 4/クォン・ジョンウン

「私にはわかっていたわ。はっきりいって、あんなに食欲のある人が胃が悪いなんてあんまり見えすいているわ。甘やかしたりしないで批判もしませんと…。考えかたを正してあげるべきだわ。それにしても、あなたのよう…

短編小説「百日紅」 3/クォン・ジョンウン

食卓にはとうふの煮つけ、トラジ(桔梗の根)と、わらびのあえもの、キムチ、吸物とスンニュン(釜にこげついたご飯を湯でといたもの。お茶がわりに飲む―訳注)まで並べられた。ヒョン・ウヒョクが食卓について吸物…

短編小説「百日紅」 2/クォン・ジョンウン

鉄路がくっきりと浮かんだ。 これなら2、3時間はもつだろう。 ヒョン・ウヒョクは、肩が抜けるような疲れをおぼえて、ようやく仕事を終えた。

短編小説「百日紅」 1/クォン・ジョンウン

(禿魯江と清川江の分水嶺をなす高い峰の細い狭間に位置する鉄路。本作品は、戦時中、敵の時限爆弾処理中に肢体不自由になり、敵のひどい砲撃のせいでたびたび落石事故の発生する「なだれ山」と呼ばれる危険な区間の…

短編小説「友人」 14/コ・ドンオン

ホ班長はチェ・キスに一本とられたかっこうだった。しかしかれは、そんことはおくびにも出さず、 「なにをえらそうな。ぼくがボール盤を改造するといいだしたからこそうまくいったんじゃないか。チェ・キスという男…

短編小説「友人」 13/コ・ドンオン

ヨンナムは、そんなにいうなら行ってきますと、しかたなく外に出た。工場の社宅はすぐ近くにあった。 ―まったく、どうなってるのか見当がつきゃしない。どなったり、けんかしたりするかと思うともう仲なおりだ。抱…

短編小説「友人」 12/コ・ドンオン

―今度はきっとうまくいく― しかし機械は無情だった。2つめのスリーブも口径があわなかった。3つ、4つとつくってみたが、やはりだめだった。最初のものとまったく同じ欠陥だった。 ホ班長はうなだれて大きくた…

短編小説「友人」 11/コ・ドンオン

ホ班長は、ふうっと大きく息をついた。自分の苦しい立場が救われたからではなかった。かれも今の場合その方法がもっとも適切だと思ったからである。