第3回千葉県日朝教育研究会/“朝鮮学校とてもうらやましい”
2016年11月16日 18:40 民族教育教員と生徒の信頼感
「第3回千葉県日朝教育研究会」(主催・千葉朝鮮学校を支える県民ネットワーク)が13日、千葉初中で行われ、約80人が参加した。
2014年から始まった研究会は、今回で3回目を迎えた。千葉県の他に東京都、北海道など各地から教員、教育関係者らが参加し、特別授業を実施した。
「日本語の楽しさ」(初2、3)、「アイヌってなぁに」(初2、3)、「千葉県のしょうゆづくり」(初4)、「伝説の金属オリハルコンを科学の手法を用いて探す」(中1)など1限から3限にかけて、初級部低学年から中級部まで計18回の授業が行われた。同校生徒たちによる文化公演も披露され、午後には分科会と全体会で授業報告が行われた。
知的好奇心くすぐる
「Good morning!」「안녕하세요(アンニョンハセヨ)」「こんにちは」
初級部2、3年生を対象に行われた授業「アイヌってなぁに」。講師の山嵜早苗さん(64、有明教育芸術短期大学非常勤講師)がいろんな国の言語で挨拶をなげかけると、児童たちも大きな声で挨拶を返す。
「では…イランカラプテ!」
きょとんとした表情を浮かべる児童たち。「これは、『こんにちは』という意味を表すアイヌの言葉です」。そう説明を受けると声をそろえて、「イランカラプテ!」と答えた。
児童たちは、この日ともに授業を行った弓野惠子さん(68、アイヌ文化活動アドバイザー)が着ていたカパラシという民族衣装に興味津々。授業は、アニメ「サザエさん」の主題歌をアイヌ語で歌ったり、アイヌ模様のハチマキを作ったりと、児童たちの知的好奇心をくすぐる内容で展開された。
郭竜河さん(初2)は、折り紙を切り、作ったハチマキに大喜び。「先生がする授業は面白い!アイヌ模様を作るのは難しかったけど、できたらすごく嬉しい」と終止お気に入りのハチマキをかぶっていた。
弓野さんは授業後、「子どもたちの『もっと教えて』『もっと知りたい』という言葉が本当に嬉しかった」と目を細める。「朝鮮学校を訪ねたのは初めてだったが、文化を通して子どもたちと心を通わせることができた。自国の文化、言葉をしっかりと守り抜いている朝鮮学校の環境はうらやましく、とても素敵だ」。
山嵜さんは「私たちは消えゆくアイヌ文化を守るために活動している」としながら、「アイヌと在日朝鮮人は辛い差別の歴史を持っている。これからもこの交流を続け、お互いの文化を知りたい」と語った。
豊かな感受性
「ウリハッキョの子どもたちは感受性がとても豊か。日頃の先生たちの教育のたまものだと感じる」と話すのは「キムチはなぜ辛い?」と題して授業を行った三橋広夫さん(65、日本福祉大学教授)。身近な「キムチ」を題材に、その歴史を紐解いた。授業を受けた尹真遠さん(初5)と尹雪琳さん(初5)は「唐辛子がもともとはメキシコから来たなんて、びっくり! 私たちの答えに三橋先生が面白い答えを返してくれるからずっと笑いっぱなしだった。また授業をしてほしい」と満面の笑みを浮かべた。
今年の夏、千葉ハッキョの会と日朝学術教育交流協会の合同訪朝団の一員として、訪朝したことをきっかけに「千葉ハッキョの校長先生の情熱に心打たれ、今回の研究会に参加した」のは大野尚志さん(60、都立高校教諭)。これまで、4回訪朝し、朝鮮学校の授業を参観したことがあるが、自身が授業を行うのは初めてだという。「授業前は不安もあったが、生徒たちが予想以上にいい反応で、自分から授業を動かそうとする姿がよかった。僕が教えている日本の中高生たちと共通する部分も見え、これから付き合うことで、もっとたくさんの姿が見えるはず」と意欲を見せた。
この日、朝鮮学校を初めて訪ねた大学生は、身近な在日朝鮮人がマイノリティとしてどういう心情を抱いているのかに興味があったという。「日本の学校と似ている雰囲気がありながらも、生徒たちの礼儀正しさや祖国、文化を重んじる姿勢は朝鮮学校ならではのもの。当たり前のように、朝鮮舞踊を踊り、民族楽器を奏でる姿が、文化への誇りを感じさせ、とてもうらやましく思った」と語る。
今回、初めて授業を行った佐野匠さん(36)は「ヨガを元にした身体法の授業」(中2)を実施。裸足になり、身体をほぐし、宮沢賢治や及川均、石牟礼道子の詩などを朗読した。最初は照れや、ぎこちなさがあった生徒たちも授業の終盤には見違えるほどに大きく、朗々とした声で詩をよんだ。佐野さんは「私が伝えたいことを生徒がしっかりと受け止めてくれ、一体感あふれる授業だった」とし、「生徒と教師の間に信頼がなければ、授業というものは、進級や就職のためのただの道具になってしまう。朝鮮学校の生徒の誠実に大人の言葉を受け止める基礎には日頃から、ひいては歴史的に培ってきた生徒と教員の信頼の土壌があるのだろう」と感想を語った。