〈みんなの健康Q&A〉歯周病と心臓病について
2016年08月26日 11:10 文化・歴史中年層では88%にその兆候が
狭心症、心筋梗塞、早産などの影響も
歯周病は日本において最も多い病気の一つと言えます。
厚生労働省の「歯周疾患実態調査」によると、歯周病は25~34歳の若い世代ですでに約80%、45~54歳の中年層では88%もの人にその兆候がみられます。
歯周病に罹患すると、口腔内、とくに歯周ポケット内の細菌が増加します。最近の研究では、これらの細菌は全身の健康状態に影響を与える可能性があると考えられてきています。とくに歯周病が影響をする全身疾患としては心臓血管疾患(狭心症、心筋梗塞など)、心内膜炎、誤嚥性肺炎、糖尿病、骨粗しょう症、早産・低体重児出産が考えられています。
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今回はこの中で歯周病と心臓疾患について述べてみようと思います。
心臓病は先天性疾患を除くと、大きくは3タイプに分類できます。
○虚血性心疾患・心筋症障害:血液を押し出す機能に発生する障害
○心臓弁膜症:心臓の弁(血流を一方向にするもの)に発生する障害
○不整脈:心臓全体のペースを調整する部分の障害
2014年の人口動態統計によると、心臓病は日本における全死亡順位ではがんに次いで第2位をしめています。なかでも、狭心症や心筋梗塞のような動脈硬化が原因の虚血性心疾患が増えています。
狭心症や心筋梗塞とはどのような病気なのでしょうか。
心臓には心臓自身に栄養や酸素を送っている冠動脈という血管がとりまいています。この冠動脈が動脈硬化になると心臓に届く血液の量が不足したり、血管が詰まって血液の流れがストップしたり、心臓が酸欠状態になります。これが虚血性心疾患です。この虚血性心疾患の中に狭心症や心筋梗塞が入ります。
狭心症とは冠動脈が動脈硬化で狭くなり、心臓が酸素欠乏に陥る状態です。
心筋梗塞は動脈硬化が進行し完全に閉塞してしまい、心筋に血液が行かなくなり一部が壊死してしまった状態です。
このように動脈が詰まる原因は、長い年月の間にアテロームと呼ばれる脂肪性の沈着物(血液中の脂肪、コレステロール、カルシウムおよびその他の物質)が動脈の内側に蓄積することによります。この蓄積を医学用語ではアテローム性動脈硬化といいます。
アテローム性動脈硬化症の危険因子として、糖尿病、高血圧、脂質異常症、喫煙、以外に歯周病のような感染症があげられます。アテローム部位から歯周病菌の遺伝子が検出されたことからその関与が示唆されます。
歯周病の人は心臓血管疾患にかかる率が2倍とも言われています。
その機序は、歯周病原因菌が産生する毒素に対抗するために起こる炎症に関与する物質が、血管壁に作用して動脈硬化を促進させます。また、歯周病原因菌の中には血小板を凝集させる作用を持つ菌が存在して血管内に血栓をつくったりもします。
歯周病は他に、心内膜炎とも関係があると言われています。
私たちの心臓には血液の流れを一方向にする弁があります。歯周病菌が炎症を起こした歯肉から血管内に侵入し血液を介して心臓まで運ばれ、心臓の内側の膜(心内膜)や弁膜に付着し増殖すると炎症を起こします。これを感染性心内膜炎といい、発熱、心雑音、皮膚や白目の点状出血、関節痛、筋肉痛など様々な症状がおこります。心臓弁膜症など心臓の弁に障害のある方や人工弁を入れている方などは、特に細菌が増殖しやすく心内膜炎を引き起こす確率が高くなります。
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注意していただきたいのは、先に述べた狭心症や心筋梗塞などの心臓血管疾患や心内膜炎の原因が必ずしも歯周病だけということではありません。狭心症や心筋梗塞の場合生活習慣に大きな原因があります。
動脈硬化を引き起こす5つの危険因子、高血圧・高脂血症・喫煙・糖尿病・肥満があげられます。これらに当てはまる場合、生活習慣を見直し改善することによってこれらを予防できる可能性が高くなります。
また、歯周病がある場合、これを改善することにより心臓病の危険因子をひとつ取り除くことになります。
歯周病セルフチェック
□歯ぐきに赤く腫れた部分がある
□口臭がなんとなく気になる
□歯ぐきがやせてきたみたい
□歯と歯の間にものがつまりやすい
□歯をみがいた後、歯ブラシに血がついたり、すすいだ水に血が混じったりすることがある
□歯と歯の間の歯ぐきが、鋭角的な三角形ではなく、うっ血していてブヨブヨしている
□ときどき、歯が浮いたような感じになる
□指でさわってみて、少しグラつく歯がある
□歯ぐきから膿が出たことがある
(*参考:8020推進財団)
一つでもチェックがある場合、歯周病の可能性があります。できるだけ早く近くの歯科医院でみてもらいましょう。
(しん歯科クリニック、申映均院長 東京都足立区竹の塚3-20-11、TEL 03・5831・1589)