〈朝鮮新報創刊70年・記者が語る歴史の現場 12〉朝鮮学校生のソウル・全州公演
2015年12月02日 10:08 文化・歴史 歴史朝鮮半島の分断は、在日コリアンの暮らしにも大きな影響を与え、日本から南北を自由に行き来できない不幸な歴史が続いてきた。
だからこそ2002年9月、朝鮮半島の分断史上、そして民族教育史上初めて朝鮮学校の児童・生徒が南の故郷を訪れたのは歴史的な出来事だった。在日朝鮮学生少年芸術団(総勢90人、団長=具大石・東京朝鮮中高級学校校長)が、韓国青少年サラン会(理事長=金相賢・新千年民主党国会議員)と韓国文化放送の主催でソウルと全州で芸術公演を行ったのだ。
9月4日、ソウル教育文化会館は、開演時間が過ぎても幕が上がらなかった。会場に次々と人がなだれ込んでいたからだ。1000の客席は満席。一人でも多くの人に座ってもらおうと、空いた席を必死に探すスタッフら。階段や通路まで人で埋まった。
公演は舞踊「五太鼓とバラ」(東京朝鮮高級学校舞踊部)で幕をあけ、民族楽器重奏「桑を取りにいくよ」、舞踊「ウリチャンダンがいい」(生野初級舞踊部)、「希望はカバンの中に」(尼崎初中舞踊部)、女声重唱「統一虹」「未来を抱いて生きよう」など、オリジナル曲や創作舞踊が披露された。
幕があがるや、「ワーッ」という歓声。目頭を押さえる人、あふれる涙をぬぐうことすら忘れ舞台に釘付けになる人々。
1階の後方に座っていたオ・キョンファさん(26)はずっと泣き続けていた。後半、朝鮮学校の歴史を伝える映像が流れるや、大粒の涙がこぼれている。「在日同胞が異国で民族を守るために、どんなに苦労したのかをよく知らなかった。南の社会が正しい認識を持てなかったことを恥ずかしく思う」とオさんは話した。
「…ハラボジ、ハルモニの話から想像していた故郷の地。その地で舞台に立てるなんて、本当に夢のようです…」。司会者の任真良さん(東京第3初級)が最後のセリフを読み上げる。任さんは感極まって、声が詰まってしまった。その姿が観客の涙を誘い、場内は涙の渦に。夢にまで見た故郷の地を踏むことなく、この世を去った在日一世は数知れない。一世の切なる願いを託された朝鮮学校の子どもたち。彼、彼女たちの発する統一の言葉は力強かった。異国で育った3、4世が民族の歌と踊り、楽器を奏でる姿、存在そのものが強いメッセージを放っていた。日本に戻るのが明日に迫ったソウル最後の夜、晩餐の席を設けた金相賢議員(66)は、「朝鮮学校の子どもは民族の財産。彼らの民族心を育み、実現させる仕事は南北双方の課題だ」と感無量な面持ちで語っていた。
2000年の6・15共同宣言を象徴する朝鮮学校生の故郷訪問。やっと実現した出会いの日々は、引き裂かれた年月を取り戻すものだった。再演を願っている。
(張慧純・イオ編集部記者)
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