〈朝鮮と日本の詩人 97〉吉田欣一
2009年07月13日 00:00 文化・歴史朝鮮の女、毅然たる姿
霜柱の崩れた泥濘の道を
毀れかけた乳母車に
ブリキ、鉄屑、壜の破片、紙屑などを満載して
背中で泣き喚く餓鬼をどなりつけ
軒々の塵芥箱を
棒切れでかきまわしてゆく朝鮮の女
人々のさげすむ様な哀れむような眼を
不敵にもはね返し
ゆったりとした足どりで車を押して行った
傍の工場からは
音頭とりの杭打ちの唄につれて
(よいとこまーけ)
(よいとこまーけ)
と女工等のかん高い声が聴こえてき
空に突き出ている大煙突からは
濛々と黒煙が
空にあまたの生活の文字をくり拡げている
歩みながら
私はあの朝鮮の女の
たじろがぬ顔を思い浮かべて
ぎゅっと唇を噛みしめた
枯れ枝の先端で
ぴゅんと風が唸って行ったが
もう肌刺すような冷たさはない