〈朝鮮と日本の詩人 5〉高村光太郎
2006年03月10日 00:00 文化・歴史峯から峯へボウが響いて 大穴の飯場はもう空だ。 山と山とが迫れば谷になる。
谷のつきあたりはいつでも厖大な分水嶺の容積だ。 トンネルはまだ開かない。
二千人の朝鮮人は何処にいる。
土合、湯桧曽のかまぼこ小屋に雨がふる。
角膜炎の宿屋の娘はよく笑う。
湯けむりに巻かれて立つおれの裸の
川風涼しい右半身に鶯、左にリベット。
軽便鉄道、鉄骨、セメント、支那めし。
三角山に赤い旗。
―ハッパが鳴るぞ、馬あ止めろよ-
又買い出されて来た一団の人夫。
おれの朴歯が縦に割れて、
二千の躯の上に十里の山道がまっ青だ。