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〈歴史×状況×言葉 10〉中島敦(上)/「臆病な自尊心、尊大な羞恥心」

2010年11月22日 00:00 歴史
中島敦 ちくま日本文学(筑摩書房刊)

中島敦 ちくま日本文学(筑摩書房刊)

中島敦(1909~1942)と言えば、日本の教科書に広く採用されてきた「山月記」がおそらく最も人気の高い作品であろう。朝鮮学校でも高級部3年生の日本語教科書に収録されている。唐代、詩人としての出世を果たせず、発狂して虎と化した主人公李徴。彼の言う「臆病な自尊心」「尊大な羞恥心」とは、誰もが人生の重大な時期や人間関係のなかで突き当たる、自分の弱さや存在価値への不安、あるいは過剰な自意識への苦悩を言い当てる言葉として、多くの人々の心をとらえ続けてきた。

ところで中島にはもう一つ、植民地時代の朝鮮を舞台にした「虎」の話がある。「虎狩」という作品だ。

家族と共に植民地朝鮮へと渡り日本人学校へと編入した「私」は、親日派両班の子である朝鮮人の同級生趙大煥と出会う。本題である趙との「虎狩」の冒険譚はなかなか語られず、代わりに趙との思い出話が延々と続く。

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