〈歴史×状況×言葉 7〉芥川龍之介(中)/「いわんや殺戮を喜ぶなどは」
2010年08月09日 00:00 歴史
関口安義著「芥川龍之介の歴史認識」(新日本出版社)
大正期後半からの社会運動の隆盛とプロレタリア文学の台頭のなか、「ぼんやりとした不安」という言葉を残し自死した芥川の文学は、激動する現実に対する知性の「敗北」として長らく評価されてきた。しかし近年の研究の動向は、その社会.歴史認識とともに、「娑婆苦」(この世にあふれる悩みと苦しみ)とたたかった苦闘の文学として新たに見直されつつある。関口安義「芥川龍之介の歴史認識」(新日本出版社、2004年)をはじめ氏の一連の論考などにそれは詳しい。
前回みた「桃太郎」(1924年)が示す、帝国主義.軍国主義への鋭い批判は、中国旅行(1921年)後ほどなくして発表された「将軍」(1922年1月)にくっきりと表れている。起承転結構成の「一 白襷隊」では、日露戦争の旅順総攻撃時、乃木希典をモデルとした「N将軍」の指揮下、天皇のために死なねばならない下級兵士たちのやり切れない思い(検閲による多くの伏せ字箇所がある)を記す。だが続く「二 間諜」ではスパイの「支那人」を「斬れ! 斬れ!」と命じるN将軍の偏執的な「殺戮を喜ぶ気色」が、将軍以上に部下の騎兵にまで伝染するのである。さらに「三 陣中の芝居」では善人で涙もろい将軍の姿が挿まれ、「四 父と子」では、N将軍のもとで働いた中村少将が後年その子に、N将軍について「人懐こい性格」であり「徹頭徹尾至誠の人」と語り聞かせる-。