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〈本の紹介〉共同研究「近代世界システムと新自由主義グローバリズム」三宅芳夫・菊池恵介編

2015年01月28日 15:29 文化・歴史

資本主義の行きづまりを多様に活写

 タイトルを目にしてとっさに思い浮かぶ人名があるだろう。「近代世界システム」といえば、言わずもがなのイマニュエル・ウォーラーステイン、そして「新自由主義」と聞けば、ある人はスーザン・ジョージ、またある人はデヴィッド・ハーヴェイを思い浮かべるかも。すでにして本件問題研究の歴史は長い。

作品社。2400円+税。

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ネオリベラリズム(新自由主義)、この現代の妖怪の本性は何か。

1970~80年代にサッチャー、レーガンという当時の英米の政治リーダーが強力に推進した政策で、これは貿易の自由化、国営企業の民営化、規制緩和などで市場の力を拡大する反面、組織労働者の力を極度に弱める。市場原理主義にもとづき人々を限りない競争状態に追い込んで争わせることで、彼らの団結・連帯に楔を打ち込み社会集団的精神を抹殺しようとする。結果、社会内部には階層間、地域間、ひいては夫婦間に至るまで分裂と対立がおき、一方、国境を越えて移動する資本のグローバル化により階級格差、国際格差は激化、世界システムが危機に陥る。ネオリベとは要するに、階級的権力を富裕階層に回収するためのプロジェクトなのである。卑近な例は、さしずめ目下の日本のアベノミクスがそれであろう。

本書はこうした「近代世界システム」の現代的局面としての「新自由主義グローバリズム」を、長期の資本主義システムの中で批判的に捉えなおそうとする大胆な試みである。

書名がすべてを物語っている。

サブタイトルにあるように、本書は資本主義の運命に関する書である。共同研究と銘打たれた、新進学者を中心とする25 人による共同作業であり、討議と論稿からなる4部構成である。

読んでいて感服するのは、世界史をいかに把握すべきかと常に問いながら問題を大局的に見ようとする研究者らの真摯なアプローチの姿勢だ。世界はもはや資本主義では立ち行かないと見て新しい社会主義の道を展望する。「もうひとつの世界」は可能であり、その中身は資本蓄積を第一公理とする資本主義システムからの離脱と、貧困を生む根源である中心(C)-周辺(P)構造の是正だという。

いまひとつ共感を覚えたのが、南北格差や差別といった、すぐれて今日的なテーマを積極的に取り上げ、それへの批判的考察が綿密になされている点である。理論はあくまで現実問題を解決するためにあるのであって机上の空論であってはならない。

W.W.ロストウの雁行型発展論の破綻に言及し、たとえば環境問題の解決には短期的な市場経済ではだめだと明確に主張、さらに中間層の解体は必ず排外主義的ナショナリズムの台頭を許してしまう、日本における現今のヘイトスピーチの横行がまさにそれであると指摘するなど目の前の課題への分析を怠らず、「アタック」をはじめとする反グローバリズム運動への目配りもよく行き届いている。

第Ⅳ部に基本文献が、紹介かたがた論じられているので、初心者はここから先に読むのがいいかもしれない。

第Ⅲ部にとりわけ誤字が散見され、残念。玉に瑕といったところか。

(高演義、朝鮮大学校客員教授)

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