科学史に先人の英智を見出す
2015年01月30日 15:27 歴史朝鮮科学史三部作・全五巻の刊行を終えて
「三部作」という表現は、普通、第三者が客観的評価として用いるもので、自らがそう呼称することは少ないだろう。それをあえて使用したのは、一つの目標としてきたからである。その目標とは自身の研究成果をまとめた専門書、一般向けの朝鮮科学史の解説書、そして南北朝鮮および在日の研究者たちの論文による通史の出版である。
筆者の専攻は物理学であるが、ある時、朝鮮には物理学者はいなかったのか? という問いが頭をよぎった。ところが、その時まで筆者は朝鮮科学史についてまったく知らなかった。そこで、まずは読んだのが1956―57年に出版された李容泰編「わが先祖の誇り・科学と技術のはなし」2巻である。そこで出会ったのが実学者として知られる洪大容であり、彼の無限宇宙論であった。以降、朝鮮科学史研究に邁進することになる。今から25年ほど前のことである。
朝鮮科学者の主体的活動
まず、基本知識を蓄積するために「わが先祖の誇り」を日本語に訳し、「朝鮮の科学と技術」という題名で1991年に明石書店から出版した。同時に朝鮮科学史と関連するさまざまな情報を集め、日本科学史学会誌「科学史研究」や「朝鮮時報」(当時)、「統一評論」などに関連記事を書いたが、1993 年にそれらを一冊にまとめた「朝鮮科学史文化史へのアプローチ」(明石書店)を出版した。そのなかには植民地期から解放以降に活躍した学者たちの簡単な評伝も含まれているが、1995年にはその問題意識をより発展させて「現代朝鮮の科学者たち」(彩流社)を出版した。