〈在日発、地球行・第1弾 1〉聖地で見た現実/インド
2015年01月23日 09:00 在日発、地球行11カ国を旅し、思索し、人々と熱く語り合った
筆者がこれまで訪れた国は11カ国。自らの足で異国の土地を踏みしめる過程で様々な人人と触れ合い、多くの感動や刺激を味わってきた。ベトナム、カンボジア、インド、モンゴル、イランでの旅の思い出を2週に1回、綴っていく。
生きる術を探して
インドはヴァラナシ。ガンジス川が流れるヒンドゥー教の一大聖地だ。
1泊500円の安宿での寝心地はそれほど悪くないが、スタッフたちの大音量の会話で目が覚めてしまった。3食カレーの生活にも飽きたので、朝食を調達するために外へ飛び出す。
大通りまでの迷路のような路地を宗教上、聖なる動物である牛たちが我がもの顔でふさいでいる。道を空ける気配はない。しょうがないので回り道、ではなく人々がやっているように牛の腹部を押しながら間隙を縫う。
朝9時だが通りはすでに人々の喧騒で溢れかえっていた。前日の雨のため地面は泥とも牛の汚物とも見分けのつかないぬかるみだらけ。そこをサンダルを履いた足で突き進む。
露店で買ったバナナを頬張りながら目的もなくガンジス川の川岸を歩く。するとどこからか呼び声が聞こえてきた。「オーイ、チャラ男~!」
心外な、自分は清純な男子だと心に言い聞かせつつ、一応振り返る。そこには小柄な少年が立っていた。
「なにしてる? 暇か?」やけに上手い日本語を使う。名前はリプで10歳。観光客を乗せるボートの呼び込みをしているという。日本語を喋れる理由を尋ねると流暢な日本語で答えた。
正直な彼いわく、日本人は何事も信じ込むから騙しやすいし、金持ちだからたくさん金を払ってくれる。だから日本人観光客と積極的に接して、その過程で日本語が身についた、と。英語、ハングルも少しは喋れるぞ、と得意げな表情を浮かべた。
貧しいため学校には通っていない。母語のヒンドゥー語は喋れるが満足に読み書きすることはできない。将来の夢を思い描くより毎日で精一杯だという。必要に迫られて、生きる術として外国語を修得したのだ。
世界中には学びたくても学べない子どもたちがたくさんいる。それに比べて自分はどうか。2年半前まで朝大の外国語学部で学んだが学業では明確な目標を持てずにいた。話を聞けば聞くほど自分の未熟さを恥じた。
すまないがボートに乗るつもりはないと言うと、チャイでも飲みに行くか?と返ってきた。チャイとはインドで紅茶を指す。紅茶と砂糖と牛乳を鍋で煮込んだ甘めのミルクティーで、ショットグラスサイズのコップ1杯で20パイサ、8円ほどで飲める。チャイ屋のオヤジに代金を支払おうとすると、リプは“いいんだ、俺におごらせろ”という眼差しで制止した。
仕方なく甘えたが、悪い気がしたので翌朝にはこちらが勘定を出してともにガンジス川を眺めながらチャイをすすった。リプの友達も集まり話に花を咲かせた時間とチャイの味が今でも忘れられない。
揺れ動く民族心
ヴァラナシは昼間の猥雑さと無秩序からは一転、日が落ちると聖地たる荘厳な顔を表す。
祈りの儀式「プージャー」が始まり、神官が音楽に合わせて経文を読み上げ、群集が何かを叫びながら祈祷を繰り返す。
その光景に見入っているとアジア人顔の男が話しかけてきた。他愛もない世間話をする中で、40代の気さくなアントニオはまだ寝床を確保していないと明かす。
ちょうど宿の部屋にはベッドがひとつ余っていた。夜の時間を持て余していたのと、節約のために「シェアするのはどうか」と提案すると、喜んで話に乗ってきた。
聞くところによると、彼の父母は南朝鮮出身で第二次世界大戦後、暮らしが苦しかったためブラジルに移って農園を営んだ。彼はブラジル生まれで朝鮮民族の血は通っているものの言葉はさっぱりわからないと話す。
一方、筆者は生まれも育ちも日本の在日朝鮮人4世だが朝鮮学校に通ったので朝鮮語を話せると説明すると、彼は驚きと羨望の眼差しを向けてきた。
「なぜそれほど長年民族教育が続いているのか」「なぜ朝鮮人として生きているのか」。質問を繰り返す彼は、貿易業の仕事柄、南朝鮮には行くがコミュニケーションのツールは英語で、そのような時は自分のアイデンティティーについて考えることが多いらしい。
記者は民族心を後代に伝えるために学校を建て同胞社会を死守してきた1、2世の血と汗の歴史を聞かせ、先代の思いをつなぐために自分たちはあらゆる差別がある中でも在日朝鮮人として生きていると話した。
すると彼は感慨に浸りながら激励の言葉をかけてくれ、「米国の犬」に成り下がっている南に比べて北は米国と対等に渡りあい自主権を堅持している尊敬すべき国だ、父母は現在の朝鮮半島では南よりも北の風土や暮らしを恋しく思っていると、言葉を送ってくれた。
寝る間を惜しんで討論を続けるうちに胸の奥底から熱いものがこみあげてくるのを感じた。翌日夜まで時間をともにし別れを惜しみつつ、いつの日かの再会を誓い合った。
(李永徳)
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