〈本の紹介〉戦争のできる国へ―安倍政権の正体/斎藤貴男著
2014年05月21日 14:03 文化・歴史尊厳が脅かす改憲に終止符を
「手垢のついた形容を繰り返したくはないけれど、これ以上に適切な表現が見当たらない」
本書の「はじめに」で、著者は本のタイトルについてこう語っている。自らを「愛国者」と評する安倍晋三首相。第二次安倍政権にとって悲願である憲法の解釈変更に向け、その名の通り「戦争のできる国」へと舵を切る。「アベノミクス」「東京オリンピック招致」の成果を持って「国民」のナショナリズムを掻き立てながら思考を麻痺させる。日本のいたるところで行われている外国人へのあからさまな差別が行われているにも関わらず、それに直接的、間接的に加担している国民の責任は大きいが、大部分の人々がそのことに気づかないよう情報操作を繰り返す日本政府はもとよりマスコミの責任はその比ではない。そして秘密裏に、しかし着実に、戦前の日本の態勢へと逆戻りしようとしている。
こうした右傾化する日本の動きに歯止めをかけるべく本書の著者は、30年以上、ジャーナリスト生命をかけ、権力に真正面から立ち向かってきた斎藤貴男氏。本書は、月刊誌「世界」の2013年7、9、10月号で連載したものが下書きとなっている。
本書は、「積極的平和主義」を声高に唱え、「集団的自衛権」の行使容認を目指す安倍首相をはじめとする、日本の中枢を担う人々が思い描く「戦争」の青写真を取りあげ、警鐘を鳴らす。
現行憲法と、自民党が打ち出す「日本国憲法改正草案」との比較も本書の特徴の一つ。
「現行」と「草案」を比較してみると一様に、基本的人権と人間の尊厳が侵されることになる条文になっていることに驚かされる。草案の随所から「国民」の人権を保障する文言が削除、修正されようといている。顕著なのが、憲法第九十七条。「草案」では、「日本国民に保障される基本的人権は、…侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」の条文が「削除」となっている。
自民党の「草案」の一部はすでに施行されつつあると懸念を示す斎藤氏。一歩、また一歩と改憲に向け突き進む政府の動きに終止符を打とうとする気迫が全編にみなぎっている。
(尹梨奈)