〈本の紹介〉グローバリゼーションの中の江戸/田中優子著
2014年05月21日 13:59 文化・歴史「自前で生きていく」ことの大切さ
この4月、女性初の法政大総長の誕生として話題を呼んだ、田中優子さんが著者。田中さんは、大阪朝高ラグビー部の活躍を追ったドキュメンタリー映画「60万回のトライ」の支援者の1人でもある。
本書は江戸文化の研究者でもある著者が多様な視点で「江戸時代」のイメージを生き生きと活写した粋な本。江戸時代は、鎖国政策を取ったが、実は、海外のものを巧みに取り入れながら、世界の波に流されることもなく、独自の発展を遂げた時代だと著者は見る。ファッション、絵画、書物などから見える海外との関わりや、中国、朝鮮、琉球との関係をたどり、「本当にグローバルであることとは」を考えていく。
この本は、2011年3月11日の東日本大震災後に出版されたもの。全編を通じて、戦後の日本を支配してきた「米国的価値観」一辺倒について、強い疑念を表す。例えば、米国による広島、長崎への原爆投下。また、「核の平和利用」と名づけられた日本の原発推進政策など…。田中さんは次のように指摘している。 「私たちは、良い方向への変化を押しとどめようとする既得権益を持つ人々の守旧的な行動を見抜かねばなりません。
最近の出来事で言えば、世界で最も地震の多い国のひとつであるこの国に原子力発電所を建てることは、絶望的な政策であることを、世界の多くの人が理解しました。そしてその絶望の中から、新しい国をつくろうとする希望を持つ人々も現れています。にもかかわらず、その動きを押しとどめようとする勢力もあります。これは既得権益ゆえなのですが、それを『日本の経済が衰退する』という理由で説得しようとします」 新しい社会への希望もなく経済が発展するわけではない。そしてそもそも「経済」という言葉は、江戸時代では「経世済民」、つまりこの世を営むことで全ての人々を救済することだった。
GDPの数字を上げることでなく、全ての人々が救われることを意味したという。 田中さんはグローバルに考えグローバルに生きるということは、どこかの大国を見習ってその通りに生きることではなく、自分が生きている地域が、そこにふさわしい発展をするように、世界の中にあるさまざまな可能性を取捨選択することだと主張する。 「多くの人と関わり助け合いながら、それでも『自分なりに』あることが『自前』なのです。グローバルに考えグローバルに生きるということは、『自前で生きていく』ということなのです」という著者の考えに共感の輪が広まっていくだろう。(粉)