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朝鮮大学校美術科卒業生たちによる企画展/東京・新宿で開催

2014年05月13日 10:14 文化

若き在日朝鮮人アーティストたちの挑戦/”朝鮮大学の美術棟から始まる新たな流れ”

4月18日から5月17日まで、新宿区矢来町のアートギャラリー「eitoeiko」で朝鮮大学校教育学部美術科を卒業した5人のアーティストによる「在日・現在・美術」展が開催されている。

オーナーの癸生川さん(右端)と出展者たち

オーナーの癸生川さん(右端)と出展者たち

ギャラリーには12点の作品が展示された。朝鮮民主主義人民共和国のポスターをモチーフに、実際には存在しないのに主観的には「見える」輪郭腺(主観的輪郭線)を用いて描く鄭裕憬さん(22)の作品。理性と言語化できないものを青と赤という対立する色で表現し、ものをみることとは何かを描く李晶玉さん(22)の作品。自分を知ることにつながるのではないかという問いから祖父の姿を描く鄭梨愛さん(22)の作品。黒と白と灰色の三角形を使って、人生での選択を描く李靖華さん(21)の作品。動物をモチーフにしたカラフルな「数独」を描く曺昌輝さん(21)の作品。それぞれの思いのこもった作品は見る人によってさまざまな印象を与えるのはもちろんのこと、描く本人たちもその過程に新しい発見をするという。

それぞれの思い

鄭梨愛さんが祖父を描きはじめたのは、2011年の春、祖母が亡くなったことがきっかけだった。「祖母が亡くなった時、大切な祖母を失った喪失感と祖母の人生についてまったく知らないことに対して後悔や罪悪感を感じた。祖母にしてあげられなかったことを、祖父にはできればという思いから、祖父を描き始めたが、初めて他人の顔を描くことはたやすくはなかった。他人を描くということは他人をわかろうとすること。そして肉親である祖父を描く行為は自分を知る行為でもあると思った。描き進めていくうちに、在日1世である祖父を在日3世である自分が描くということは、社会的にみるととても意義のあることだと気づかされた。そして祖父の故郷や歩んできた歴史について知らなければという思いと、それ以上に身近な存在である私だけが知る祖父の姿を描きたいと思った」と鄭梨愛さんは語った。

李晶玉さんの作品「虚像」

李晶玉さんの作品「虚像」

李晶玉さんは日本の美術界で在日朝鮮人が絵を描く意味についてこう語る。「在日のアーティストとして日本のアートシーンに参加していくということは、日本人が持っている『在日』の既成概念への一種のアプローチだと思う。日本社会において在日朝鮮人は見たくない存在だし、排他すべき存在。なぜなら、在日朝鮮人という存在が日本政府が目を背けている過去の未清算問題や戦後処理問題と直結しているから。在日朝鮮人を同化に追いやる日本社会、閉鎖的な日本美術界で『在日朝鮮人アーティスト』としてチャレンジすることに意味がある」。

今回の企画のリーダーである鄭裕憬さんは在日美術の可能性について、「在日美術の可能性について語るには、まず『過去』を整理する必要がある。美術において、美術史の文脈をおさえる作業はとても重要。現在、在日朝鮮人美術家は存在するが、その歴史や作品が体系化、文脈化はされていない。美術科の卒業生や先生たちが、在日美術を整理する活動に取り組んでいる最中だ。自分も歴史に残りたいというモチベーションで製作に取り組んでいる」と語り、日本だけにとどまらず、将来アジアを視野に入れて活動をするという目標をたてている。

周囲の大きな反響

5人の展示をみた40代男性(新宿区、ゲームデザイナー)はSNSを通じて今回の企画展を知ったという。「『在日・現在・美術』と聞いて深刻で重い感じかなと思ったら、ポップな絵もあって意外だった。画一的なものをイメージしてたが、反対にとても自由で、また技術もとても高い。在日特有の感性なのかな」と感想を述べた。

今回の企画は、2013年に朝鮮大学校の美術棟で行われた企画展「『在日』は必要だったCHODEMI 2013」、同じ年に武蔵野美術大学で行われた「この場所にいるということ 武蔵野美術大学FAL 2013」などと共通のテーマで行われたもので、3回目の開催。

3回目は外のギャラリーで行おうとさまざまな企画ギャラリーに企画書を送ったが、ことごとくメールの時点で断られた。日本美術界では「在日」というワードがあるだけで、かかわりを持ちたくないと敬遠される。そんな中、「eitoeiko」のオーナーである癸生川(きぶかわ)栄(えい)さん(42)だけが興味を示した。

鄭梨愛さんの作品「傍」

鄭梨愛さんの作品「傍」

「eitoeiko」では他の日本のギャラリーではあまり扱わない作品を多く扱う。当初は鄭裕憬さん、李晶玉さん、鄭梨愛さんの同期3人で行う予定だったが、朝鮮大学の美術棟で李靖華さんと曺昌輝さんの作品を見た癸生川さんの提案で5人で企画展を行うことになった。「5人の作品がそれぞれやりたい方向に自由に向かっていたので、バリエーションがあり面白いと思った。在日の若者5人の展示を、朝鮮大学校の存在も、ましてやその中に美術科があるということも知らない人たちはどうみるのか。イメージとして、一定の枠にはまったものしか描けないんじゃないかと思っている人が多いはず」と癸生川さん。そういう意味で日本のギャラリーという大きな枠で在日3世の若者たちの絵を展示するということは意義があったし、一つの新しい試みであった。

また、朝大の美術科はSNSを通した広報活動や、武蔵野美術大学との交流など、対外活動を活発に行ってきた。朝大では、展示会はもちろんのこと、七夕に美術棟の前でイベントを行い、Twitterを通して写真コンテストを行うなど、独創的なアイディアも生まれた。

しかし、ここ数年の交流活動を通して、朝鮮大学校の美術科の試みに興味を示す日本の人は増えたが、同胞社会からの関心は薄いという。李晶玉さんは「2013年に武蔵野美術大学で行った展示会『この場所にいるということ 武蔵野美術大学FAL 2013』は画期的な出来事だった。反響も大きく、800人から900人の人が来場したが、在日同胞の来場者はあまりいなかった。アートシーンでの交流も朝・日友好の重要な窓口。美術科がその道を開いた意義は大きいと思う。これからも活動を継続し、もっとたくさんの関心を集められればと思う」と語った。

今年、朝大美術科には新たに9人の学生が入学した。朝鮮大学の美術棟から始まる、新たな流れに期待したい。

(文・金宥羅、写真・李哲史)

 

 

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