史上初、学美で連続「特別金賞」東京中高・朴秀太さん(高3)
2013年09月26日 11:14 文化在日朝鮮人の根っこ(ルーツ)を探して
12日の東京展を皮切りに、全国巡回展がスタートした第42回在日朝鮮学生美術展(=以下、学美)。
毎年、会場に足を運ぶたび新しい感動に包まれるこの展覧会で、今年はまた異彩を放つ作品とであった。特別金賞「根」。東京朝鮮中高級学校高級部3年の朴秀太さんが出品したこの作品は、長さ150cm、重さ30~40kgにもなろうと思われる大きな木の根を掘り返したものだ。同じ時間帯に展示会を観覧していた某初中級学校の低学年児童たちも、この作品が放つエネルギーに引き寄せられたのか、近づいてきては「何これ?」「根っこだ! 根っこ!」「どうしてここにあるの?」などと話しながらまじまじと眺めたり、細かい土のついた細い根先をそっとさわってみたり、鼻を寄せて匂いをかいでみたりしながら観察していた。
作品には次のような説明文が添えられていた。
「私の根っこはどこにあるのか。私はディアスポラにも似た存在だ。日本にまき散らされた外来植物の種のようなもの。そんな植物にも根があるだろう。私にも私だけの「根」がある。私は思う。人の根は必ずしも一つではない。私が掘り起こした根っこには、別の木の根が絡みついていた。まるで私にメッセージを投げかけるように。そう、私の根も他者の根と複雑に絡み合っている。それは、私が生まれる前から存在し、私の内に宿った朝鮮語と日本語という二つの言語かもしれない…」
後日、東京中高の朴秀太さんを訪ねた。
彼の「根」という作品は、今年の夏、高3生徒たちが修学旅行で祖国を訪問をする際に、経済的な事情で行動を共にできなかった日々に取り組まれたものだという。
「祖国を訪問して多くのことを学んで帰ってくる友達に引け目を感じたくなかった。私も行きたかったし友達がうらやましかったから。それで何かしなくてはと思い、高級部卒業を控えて最後の展示会も目前に迫っていただけに、自分探しの意味をこめて作品を作りたいと渇望していた。ずっと胸の中にうごめいていた在日朝鮮人という存在。これを作品化したいと考えた」
彼は、進路についての講習会を受けた時のことを話しながら、「私たちは討論の場が与えられると『自分のルーツ』について考える。だけど、普段それを意識しながら生活することはほとんどない」と語り、そうしたできごとから人目にさらされることのない「植物の根」に着目したと話した。
「植物が育ち、生きていくために、なくてはならないもの」「人目につかず、最も深いところにあるもの」――。
植物の根に、在日朝鮮人としての自分のルーツを重ね合わせた彼は、67年の歴史を刻んできた東京中高の古木の根を掘り返すことを考えるようになった。
「体育館の脇に幹が折れて切り株だけが残ったものがいくつかあったので、美術部の顧問と管理部長に許可を得て作業を始めた」
連日最高気温37度という猛暑の最中、流れる汗を拭いながら約10日間かけて作業を進めた。
「この木は、私だけでなく、うちのオモニ(お母さん)が学校に通う姿も見ていただろうと考えると、この木の根っこと私のルーツが同じような気がした」と言う。
掘り返した根には、別の木の根が絡みついていた。彼は、「自分の枠をはみ出して他の植物と絡み合いながら共に生きるたくましさ。それは、日本語と朝鮮語を駆使しながら自分の意志を表示する私の姿そのものだ」と考える。
朴さんは現在、同校高級部の美術部キャプテンだ。昨年度に続き今年も学美で特別金賞を連続受賞。これは学美史上初の快挙と言える。
中央審査委員会の朴一南委員長は、「作品に込められた深い思いとストレートな表現に感動した。高級部の生徒がこれほど強い意志を持ってあの大きな根を細心の注意を払いながら、自力で掘り起こしたことにも驚いた。特別金賞の授与は審査員全員一致で決まった」と評価した。
朴さんの特別金賞「根」の展示は、東京展に続き、25日から29日にかけて開催される兵庫展と、来年2月13~16日に予定されている島根展でも観賞できる。
(金潤順)